忍者ブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

リクでいただいてたシャア総帥総受けです。

総受け?になりましたすいません。


 人の意思の奔流と言うのを感じるのは二度目だ。温かな緑の光に身を委ねながらシャアはひっ迫した状況だと言うのにぼんやりと考えている。
 かつての仲間たちと袂を別ち、この瞬間の為だけにネオ・ジオンの総帥として君臨した。そのこと自体に後悔はない、反省があるとすれば少年達にせめてもう少しでも事情を。
 そこまで考えてゆるく首を振った。口元には自嘲の笑みを浮かべている。そうすればあのまっすぐな少年たちはシャアに協力しただろうか、それともやはり止めに来ただろうか。
 止めに来ただろう。すべて事情を説明することなどできず、永遠の停滞に囚われるなどごめんだ。あの胡散臭い赤い彗星を自称する男に逃げられても癪だというのに。
「クワトロのおっちゃん。」
 差し伸べられた手は少年らしいふくふくと瑞々しいものだった。にんまりと笑った子憎たらしい笑顔に苦笑を返し差し伸べられた手ではなく跳ね放題の癖毛を撫でた。顔をくしゃくしゃにして笑う少年が少々手荒に男の背を叩き前へと押し出す。
 そうだな、こんなところで立ち止まるわけにはいかないだろう。
「クワトロ大尉!」
 足を踏み出した男を少年二人が追い抜かし振り返り様無邪気に手を振っていく。穏やかな青い瞳と、対照的な活発な榛色、不思議と似ている輝きを好ましく思う。
 その後ろを少女たちが追いかけ、最後に保護者のような表情をした女性が呆れてついて行った。
 かつての仲間が、敵が次々と男を追い越して走り抜けていく。男は殊更ゆっくりと歩を進め、通り抜けて行く人々を見送った。
「こんなところでぐだぐだと、なにをしているんだ」
 心底呆れたように言い放ったハマーンがほんの少しの間隣に並ぶ。気まずい思いをしなくもないがここで足を止めるわけにはいかない。
 ふわりと、無駄に豪勢な衣装が揺れる。赤と緑の燐光を纏わりつかせた少年が同じ年ごろの金髪の少女の手を取って駆け抜けていく。戸惑いつつも笑う少女が一瞬だけシャアを振り返り大人びた笑みでもって男を詰る。
「まったく・・・姫様にも困ったものだ」
 苦笑したハマーンが嬉しそうに呟き、鋭い視線でもってシャアを見た。そらす事など出来ず黙って立ち止まる。
「私はもう行く」
 マントが翻り毅然として歩む細い背を眩しく想いながら見送り、シャアもまた歩き出した。立ち止まることなど許されていない。それに、立ち止まる意思もない。
「まだこんなとこに居たんですか!?早くしないと置いてっちゃいますよ」
 向かう方をじっと睨んでいた痩身の少年が振り返りぎょっとしたように男を見た。
「そういう君こそ。早くいかねばカミーユが心配するぞ」
 笑いながら足を止めれば赤い目の少年はぽかんとしたように男を見上げ、堪えきれないと言うように笑いだす。不思議に思って首を傾げれば、背後から盛大なため息が聞こえ慌てて振り返った。
「貴方があんまりにものんびり歩いているから、追いついちゃいましたよ」
 やれやれと肩を竦める藍色の髪の少年はいたずらっぽく笑う。何度か瞬きを繰り返しているうちに男の前に回り込んだ少年が固めた拳でもって男の腹を打った。
 軽い音と衝撃にさらに疑問符が浮かぶが少年はただ笑う。
「今は、これで勘弁してあげますよ。帰ってきたらみんなからお説教ですから」
 あぁ、彼はこの少年を待っていたのか。今更になっておいついた理解に男は口元を微かに緩ませた。
「それは怖いな。だが、私が帰る場所など」
 冗談めかして言うが本音だ。男はこの瞬間の為だけにこの世界を生きてきたと言っても過言ではない。
「あります!俺が帰ってこれたように、大尉だってまだ!」
 だが、それも受け入れられるらしい。慌てたように言う黒髪の少年にシャアはただ苦笑するしかできなかった。
「大体、いまさらどこに行けるって言うんですか?だから、さっさと帰りますよ」
 ついてくるのが当然とでも言うように藍色の髪の少年が男に背を向け赤い目の少年を引っ張って歩き出す。頼もしくなった、随分強くなった背中に未来を、希望を見た。
 未来とは、絶望に閉ざされた暗闇ではないと、あの男が知る事があるのだろうか。





「もう、いいのか?」
 温かな逆光の中で佇んでいる男は微笑んでいた。穏やかな声、喜びすら含んだ響きに男は足を止めざるを得ない。
「いいと、答えてほしいのか?」
 そうすれば、この男は自分を少女の元へ連れて行ってくれるのだろうか。三人で、誰も到達しえない安らぎの中でいられるのだろうか。
 だが、
「貴方さえいいのなら、俺たちの役目は終わっても良い頃合いだろう」
 微笑みの中に、琥珀色の瞳の中に燃える意思がある。それは、男の青い瞳の中にも宿る光だ。まだ終れない、まだ歩みを止める事など許されるわけがない。
「それは別の世界の私たちの役目だ。まだ、私と貴様が機体を降りるなど出来るわけがないだろう」
 にやりと、好戦的な笑みが男の口元に宿る。十代の少年のように、あの頃のように不敵に笑ったアムロが握った拳に己の拳をぶつけ宇宙に繋がる虚空を睨みつけた。





拍手

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
[63]  [61]  [60]  [59]  [58]  [57]  [56]  [55]  [54]  [53]  [52
忍者ブログ [PR]