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艦娘シンと提督アスランの話。
割とシリアス。




 ぼろぼろになった翼と頭部の飾りに目眩がした。額からだくだくと体液を垂れ流し、閉じかけた瞳でアスランの姿を認めるとにやりと口元を歪ませる。 

 やってやりましたよ、文句ないんでしょ。
 
そう、言ったように見えたシンは母港にたどり着くことなくその場で崩れ落ちた。
 背部装甲から煙を排出し、完全に倒れ伏す前に最も近くにいたZ型・カミーユがシンを抱きかかえフライングアーマーに乗ってその場を離脱する。 
 敵の親玉は先ほど刺し違えるようにしてシンが沈めた。引き連れていた小物をルナマリアやロランが蹴散らすのをただ呆然と見つめる。
 制海権は獲った。これでしばらくはこちらが有利に進められるだろう。 
だが。 
 真っ白になった思考で全員に帰投を指示して立ち尽くす。 
 焦った表情のカミーユがドッグに飛び込んだ事を視界にとらえ動きたがらない足を無理やりに引き剥がしてそちらへ向かう。
 本来であれば帰投した全員を迎え、労い、戦果報告を行うべきだ。だがアスランは息を詰めたまま目の前で装甲を取り外されているシンを見ていた。 
 カミーユも被弾していたが入渠するほどではない。立ち尽くすアスランに忌々しそうに視線を向けたかと思うとそのまま肩をいらかせて歩み寄ってくる。
「なんでシンを焚きつけるような事を言ったんですか」 
 いっそ怒鳴られる方が良かった。怒りを滾らせたカミーユが押し殺した声でアスランを詰る。 
何を言っただろうか。思考回路がうまく働かず唇を噛み締めた。
 いつだって生意気でアスランの事を上官だと思っていないシンに呆れていたのは確かだ。だからおそらく彼のプライドを刺激するような事を言ってしまったのだろう。 
 それで、あんな無茶をしたのか。自分の有用性を示すために?
「シンは、あんたに・・・!!」 
無言を貫いていたアスランの襟首をカミーユが掴む。怒鳴りつけられたその先を言うことは無く、怒りに震える拳がアスランの顔に振り下ろされることもなかった。 
 ばたばたと帰投してきた第一艦隊が血相を変えて間に割って入る。
「・・・クワトロ大尉のとこに戻ります。報告書は後日持って来るんで。」
 ロランに羽交い締めにされ息を整えたカミーユは吐き捨てるようにそう言うと、気を失っているシンに視線を向けた。合同任務のために借り受けていた彼らは本来アスランの鎮守府にはいない。
「あんまり不甲斐ないと、連れて行きますから。」 
 僚機の拘束を振り払ったカミーユは冷たい目でアスランを見る。 
 装甲を取り外されたシンの修理はまだ終わりそうに無いが、ここにいても無駄だと分かっているのだろう。
 振り切るように背を向けて出口に向かうカミーユと、アスランに一度だけ頭を下げてそれを追ったロランが見えなくなった。 
 ルナマリアが気遣わしげにアスランの顔を覗き込む。レイは中々動き出そうとしない上官に、黙ってその場を去って行った。
 ふらふらと沈黙しているシンに近づくが修理の邪魔になるとメカニックに注意され立ち止まった。 
 応急処置は終わったのか流れていた体液は止まり痩せぎすの少年の姿があらわになる。 
 青ざめた頬はまるで
 そのあとどうやって執務室に戻ったかは覚えていない。 
 目覚めないシンの代わりに秘書艦を勤めるレイが黙々と報告書を作成している横で決済するべき書類を前にペンを手に固まっていた。
 シンに何を言ったのか。 
 それが気になって仕方ない。読み込む努力はしているのだが視線が紙面を滑る。一行に作業が捗らず、ついにはため息をついたレイに執務室を追い出された。
 自室に帰るべきなのだが足は自然と入渠ドッグへ向かっている。 
 時刻は深夜を回っていて他の艦には会わなかった。 
 修理はほぼ終了しているらしい、ただ新しい皮膚組織の癒着に少し時間がかかるらしく今はベッドに寝かされている。
 丸椅子をベッドに寄せ指を組んで思考にふける。その間も視線は目を閉じて微動だにしない己の秘書艦へ注がれていた。 
 
 シンは、扱いの難しい艦だった。ワンオフのインパルス型として建造されたがスペックの高さに自我が追いついておらずクワトロ提督預かりになっていたものを提督として出戻ったアスランが譲り受けた。当初は警戒していたシンも少しずつ慣れ、喧嘩もするが信頼関係を築いていたと思っていたのは自分だけだったのだろうか。 
 最近インパルスからデスティニーに改造を受けたシンが悩んでいたのは知っていたが。
 出撃前に些細な喧嘩をしたことは覚えている。頭に血が上ってシンにひどいことを言ったかもしれない。 
 案外丸みを帯びている頬は青ざめていた。長い睫毛が影を落としているのをぼんやりとみやりため息を吐く。 
 命に別状はないと聞いた。だが改めさせなければ遠からずシンは轟沈するだろう。 
 どうしてやればいいのかわからず頭を抱える。
「あんた・・・なんて顔してんですか」
 かすれた声が笑いを含んで囁いた。無意識に、立ち上がり怒鳴りつけようとしたのかもしれない。引いた足に椅子が当たって甲高い音を立てる。鼓膜に突き刺さるそれに眉を顰め思い切り吸い込んだ息をゆるゆると吐き出した。
「俺、ちゃんと、役に立ったでしょ」
ガラス質のバーミリオンが機嫌のいい猫のように細められアスランを見上げる。あんまりだ、なんて顔を。
 つんと痛む鼻の奥を誤魔化すように咳払いをして必死に歯を食いしばる。
「あんたの、一番の秘書艦だろ?」
 本来なら、こんな子供じみた感情を否定してやるべきなんだろう。この子たちは兵器だ、それをアスランはたまに忘れてしまう。
「・・・あぁ、そうだな」
 だが、あんまりにも悲しかった。アスランは顔をくしゃくしゃにしながら微笑んでシンの頬についた傷痕に触れる。
「そうだったな、お前は、俺の秘書艦だったな」
 酷い顔をしているだろう。しかし、シンは満足そうに微笑んで薄い瞼を閉じた。


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