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少女シモンとカミナの話。



 穴倉から出てきてみた天井は広く高く青かった。グレンによじ登り見上げる、始めてみたときほどの鮮烈な印象は受けないが相変わらず見慣れない天井はカミナの心をくすぐった。地上には他にもたくさん見たことがないものがあったがこれほど心惹かれるものはない。
 耳になじむ声に下をうかがい見ると竜馬にからまれているシモンがその逞しい腕から逃れようともがいていた。竜馬の方に悪気はないので割って入ることはしない。シモンもカミナ以外の人間に慣れていないだけで本当に嫌がっているわけではないだろう。ふと竜馬が何かに気付いたように動きを止める。きょとんと見上げるシモンが何か口を開くが内容までは聞こえてこない。片手でシモンを捕まえていた竜馬がもう片手を額にあてやれやれとため息をついていた。そのままひょいとシモンを肩に担ぎあげ母艦の方にずんずんと歩いていく後ろ姿はとてもではないがヨーコと同じ生き物だとは思えない。カミナの世界は狭いがそれでも同等に殴り合いの喧嘩ができるほどの女はいなかった。ヨーコ達も強いが単純に腕力で同等かと言われると首を横に振るだろう。
 見るようなものがなくなったため再び空に視線を戻したが思考は先ほどとは別の方に流れた。先ほど軽々と担がれていた妹分の事だ、外に出て随分変わったと思う。背が伸びる、肉が付く、少年と変わらなかった体は着々と成長している。二人の関係は変わらないが見た目は短期間で随分成長したものだ。カミナ自身は急激な成長を経験している上に地下の少女たちを知っているのでそう不自然には思わなかったが新しい仲間たちは顔をしかめていた。シモンの小柄さは穴掘りには最適だったが同年代の少女たちに比べれば少々異質だ。
 あばらの浮いたわき腹に骨ではないかと思う細い手首、抱え込めば骨が当たったし何より軽かった。深く息を吸って随分と腕に納めていない体を思い浮かべる、地震があるたびに怯えていた小さな子はもういないのだろう。
 ぼんやり空を見上げていると端から色が変わってきていることに気が付く。グレンラガンの色だと思うと先ほど竜馬に連れて行かれた妹分に会いたくてたまらなくなってきた。珍しく感傷的な気分になっていたせいもあるのだろう、居てもたってもいられずグレンから飛び降りるとタイミングよくシモンがプトレマイオスの搭乗口から駆け下りてくる。大声で名を呼べばほとんど泣きそうな顔をしたシモンと目が合う。駆け寄るシモンにただ事ではない様子を感じたカミナは顔をしかめる。そのまま飛び込んできた妹分を受け止めると搭乗口からこちらをうかがってくるヨーコ達女性陣と目があった。睨み付ければヨーコが顔の前で両手を合わせてごめん、と示してくる。
「どうした?何されたんだ」
ぎゅうとしがみついてくるシモンに尋ねても首を横に振るばかりで答えにならない。引っぺがして理由を聞いてもよかったがヨーコが軽い調子で謝っているのを見ればそうたいしたことでもないのだろうとあたりをつけそのまま好きにさせた。ぽんぽんと頭を撫で地上に出てからもらった青の上着に包まれた小さな背中に手を回す。記憶よりもずいぶん柔らかくなった体に成長したな、など少々場違いなことを考えて藍色に染まりつつある空を仰いだ。
「竜馬に服脱がされて葵にスカートはかされそうになった」
しばらくしてシモンがぽつりと言った言葉に少しだけ笑ってしまったのは秘密にしておいた。

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