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フォロワーさんの呟きに触発されて書いたアスシン。

やることやってる2人を前提にお読みください。





 ことさら暑い夏の日だった。端末片手に格納庫へ行く間もじわじわと汗がにじむような気がしてアスランはつい、素行の悪い部下の様に襟を緩めてしまおうかと首元に手をやるがしばらく考えてやめた。余計なことにはよく気の付くあいつにからかいのネタを与えることもないだろう。
 元から生意気であったというのに、最近は暑さで余計に苛立って攻撃的になっているので相手をするのは面倒くささが先に立った。オーブの出身ならばもっと暑さに強くても良いだろうに。
 格納庫の扉をスライドさせれば熱風が頬を打つ。回れ右して涼しい自室で書類を片付けてしまおうかとも思ったが後回しにすると熱帯夜の中作業をすることになる。人数の多い部隊で出撃がなければシャワーの順番も決まってしまっているもので、すっきりした後に再び汗まみれになるのはごめんだ。
 辟易しながらジャスティスのところへ歩いていく。甲板への扉は全開にしてあったが吹きこむ風は照り返しで熱せられ蒸し焼きになりそうだ。
「あれ、アスランも整備ですか?」
 部隊の区分け、というよりはガンダムはガンダムで纏めておいた方が整備が楽なのだろう。VPSを落としたジャスティスの隣に同じように灰色のデスティニーが佇んでいて、その足元では首にタオルを掛けたシンが腰を下ろしていた。
「お前なぁ・・・暑いのは分かるが、せめて軍服に袖を通すぐらいはしろ」
 上着を脱ぎ払いコンテナに引っ掛けているシンが決まり悪そうに唇を尖らせる。細い頤にはぬるい汗がたまり、髪が張り付いているところを見るとそれなりに長い時間この場にいたのだろう。元から白い顔が今は青白くなっているように見える。
「軍服に汗が付くの嫌じゃないですか。ただでさえ夏は洗濯の回数増えるのに」
 深い溜め息を吐きながら項垂れるシンは噛みつく元気もないのだろう。熱中症になっていやしないかと冷や冷やしているアスランの前で手にしたボトルから水を一気に飲み干してゆっくりとした動作で立ち上がった。
「夏ってあんまり好きじゃないんですよね。暑いし、べたべたするし」
「お前は冬も嫌いだろ?寒いって着ぶくれしてたじゃないか」
 思わず突っ込んでしまえばむっとしたように眉を寄せて赤い目がアスランを見る。睨んでいるように見えるが、ただ不機嫌になっただけだと学習したのはいつだったか。つい最近のような気がする。
「アイスとか食べたいな。アスラン、かわいい部下に奢ってくれてもいいんですよ」
 下から覗きこむように見上げられると少しだけむっとする。童顔で、割と可愛い顔をしていると自覚がないから余計にだ。暑さで苛立っているのだと、のど元まで出かかったため息を飲み込んで前髪の隙間から見える額に指弾を食らわせた。
 横暴だ、パワハラだと喚いているがそれだけ元気があれば大丈夫だろう。
「みなさーん!艦長たちからアイスキャンディの差し入れですよー!」
 クーラーボックスを抱えた郁恵が笑顔で格納庫に入ってきて歓声が上がる。アスランとじゃれあいのような小競り合いをしていたシンもぱっと顔を輝かせて配られる水色の棒アイスを受け取った。
「艦長たちさすがですね!」
 この室温ではすぐに溶けてしまうだろう。再びコンテナに腰を下ろしたシンの隣に仕方なくアスランも腰かけた。好意はありがたいが早く食べて整備を終わらせてしまいたい。涼しい部屋でハロでもいじりたいと最早仕事に関係ないことを考えながら水色の氷菓子にかじりつこうと口を開く。
 不意に視界の端を今はアンダーシャツのみでむき出しになっているシンの肘がかすめ何気なく視線を向けた。
 白い頬にかかる髪を耳にかけ、見慣れない横顔が露になっている。小さな口が水色のアイスキャンディをくわえ、下唇との隙間から赤い舌がちろりと覗いた。だるそうにわずかに猫背になって俯き気味に氷菓子をなめる横顔は相変わらず青白く、蒸し焼きになりそうな熱気はそのまま額から流れる汗にかわる。
 するりと引き出された棒の先をすぼめられた唇か少しだけ吸い、冷たい息を吐いてもう一度水色のアイスが血色よく色づいた唇の間に半分ほどその身を隠した。
 暑さにうるんだ瞳は伏せがちで吹きこんだ熱風が髪を揺らし、汗に湿った黒髪が耳から落ちて頬に張り付くさまに思わず喉が鳴る。
「アスラン、見すぎ。袖にアイスついてますよ」
 じゅ、と音をたててアイスから滴りそうになっていた水色の水滴を吸ったシンが呆れたように口を開く。慌てて手元を見れば三分の一ほど溶けかけたそれが手を伝い袖口を濡らしていた。とっさに掌を舐めると汗でじわりと苦い。
「もー、何考えてたんですか」
 まさか棒アイスを食べているだけの姿を見て妙な気を起こしそうになっていたなど言えるはずもない。乱暴な動作で氷を噛み砕くアスランを少しだけ意外そうに赤い瞳が見て、何か思いついたのかにんまりと細められた。
「変なこと考えてたんだろ。アスランむっつりだしな!」
 んぐっ、と妙な声が出て気管に冷たい液体が流れ込む。激しく咳き込むアスランを、シンはぽかんとした顔で見上げていた。
「えっ、マジですか…」
 僅かに沈んだシンの声を慌てて否定するが咳は止まらない。棒から落ちそうになったアスランのアイスを細い指が奪い取りぱくりと口におさめた。ほとんど溶けかけていたそれを飲み下したシンが指先についてしまった液体を舐める。
「すけべ」
 赤い瞳が小さく噎せていたアスランを横目で見やり痩身が早足で、まるで逃げるようにデスティニーに向かっていく。口を開いたままそれを見送ったアスランは一拍置いて怒鳴り返そうと一度大きく息を吸ったのだが、喉奥にいまだ絡まるアイスの残滓に再び咳き込んだ。

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