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シンは普通の状態ではありません。

カミーユ「アインって誰だよ!!!」ほんまそれ。





 シンにはあのクーデリアとかいう少女の言う事がさっぱりわからなかった。貧困をなくし、争いを治めると言う彼女自身が何故少年兵を使い荒事に向かうのか。ドルトコロニーの暴動鎮圧は胸糞の悪い作戦だったが拘束されかかっては飛び出すこともままならない。ガエリオがこの作戦に不快感を示し参加しないと明言したことは救いだったが、彼はその実家の権力をつかってまで事を治めようとはしていない。出来ないのかもしれなかったがシンにとっては些細な問題だ。
 アインに腕を極められ身動きできないままシンは悪態をついた。
「アスカさん」
 アインの声に感情はない。慣れているのか、彼女はこの作戦をなんとも思わないのか。
「…鉄華団か!仕方がない、出るぞアイン!」
 ぱっと腕を離されシンは勢い余って膝をついた。気遣わしげに差し出された手を掴んで夜色の瞳をじっと見る。
「行けますか?」
 行かないと言えば拘束されるのだろうか。シンは無言で頷いて引き起こす手に逆らわないまま立ち上がった。鉄華団のパイロット達は手加減という言葉を知らない。なぎ払い、焼き尽くす、それはシンの望むところではない。けれど、どうすればいいというんだろう。子供達だ。シンの知る少年達と同じ子供達が戦っている。
 彼らに情はなくともカミーユとアムロが付くのならば悪い子たちではない。
 艦内を走って待機室に向かいながらつらつらとそんなことを考える。シンがアインに共感を覚えたのは敵討ちだと聞いてからで、ならば、その因縁を払うためにカミーユとアムロに対するのは自分だと決めたからだった。
「シン!待っててもいいんだぞ」
 キマリスに向かうガエリオがニヤリと笑いながら振り返る。
「行きますよ!Zとνの相手は俺です!!」
 シンはデスティニーに向かいながら怒鳴り返した。死なせたくないし、殺したくもない。けれど方法が見えず、慣れ親しんだ仲間たちのもとへ何も考えないまま行くことだけはできなかった。
「シン・アスカ!デスティニー、行きます!」
 真空の宙へ飛び立つ。先に出たガエリオとアインを探すが乱戦の中見慣れない機体は目に留まらない。それよりも、背中を預けあった親友が接敵する方が早かった。
『シン!こんな、こんなのがお前の選んだ道なのか!!』
「そんな訳があるか!!俺だって、止められたものなら…!!」
 言葉がつまる。結局、力不足だったのだから。激昂しているカミーユの相手をしながらνガンダムへの牽制もする、と言うのは今のシンには些か荷が重い。けれど、このまま鹵獲されるわけにはいかず必死に操縦桿を握りしめる。
『分かっているだろう。いや、今回の件で一層浮き彫りになったはずだ!お前の正義はここにあるのか!?』
 アムロの言葉が突き刺さる。組みついてくるZを振り払い、距離を取ろうとするがアムロがそれを許さない。フィンファンネルに囲まれ、フラッシュエッジを犠牲に辛くも逃れる。戦況は悪い、けれど宇宙に漂うシンをを見つけてくれた人をただ死なせたくはなかった。
「それでも、それでも!俺は!」
 アインの声がする、ガエリオの声が聞こえる。通信越しに二人が奮戦しているのがよく分かった。噛みしめた唇から血が滲む。カミーユの躊躇に救われフライトユニットを細かく調整して後退する。
『シン!!』
 Zの手がカミーユの手に重なって見える。幻だ、シンは二人のようにはなれない。感じ取ることはできない。それでもカミーユの親愛を蹴ってまでもアインたちを見限ることができなかった。
 アロンダイトを引きだし、噛みしめた奥歯の間から熱い息を吐く。呼吸の音がうるさい。
『アイン!?』
 通信から聞こえた悲鳴染みた声にはっとしてようやく見つけたキマリスの白い機体を振り返ればフレームのひしゃげたシュヴァルベを抱えて飛び去る所でシンは息が止まった。
「アイン!!」
 フィンファンネルを叩き落とし被弾に構わずスレイプニルへ針路をとる。プラントの最高技術で作られたデスティニーを完全に修理する術はこの世界にはない。きっといくらか不具合がでるだろう。そんなことも頭に入らないまま残像を残し飛び去った。
 戦闘はいつの間にか止まっている。そんなことに構えないほど余裕のない表情でモビルスーツデッキへ戻されたデスティニーからヘルメットを取り払いながら飛び降りる。キマリスは無事だ、シュヴァルベも損傷はひどいがコックピットは無事に開いている。
「アインは!怪我はどうなんだ!!」
 近くにいた整備士に詰め寄ればシンの着艦する寸前に医務室に担ぎ込まれたということで命に別状はないと恐怖に引き攣った声が返って来た。安堵に崩れ落ちそうになる膝を叱咤して再び床を蹴る。戦闘配備中と言う事ですれ違うクルーはいない。もどかしい気持ちで医務室の前に辿りつき扉を開く。
 踏み込んで、簡易ベッドに座り処置を受けているアインを見てようやく息を吐きその場に座り込んだ。ひしゃげたコックピットを見てフラッシュバックしたハイネとステラの散り様が今更手を震えさせ上体を支えていた肘が折れる。
「ステラ…」
 呻くように呟いた無意識は誰の耳にも届かなかった。部屋の入り口でくずおれたシンにアインの応急処置を終わらせた船医が駆けより肩を掴まれる。
「アスカさん!?あなたも怪我を・・・」
 下着だけのアインが痛みに顔を歪めながら立ち上がろうとするのを留め顔を上げた。唇が震え、血が下がっているのが分かったがへたくそな微笑みをつくってみせる。
「お前が無事でよかった」
 僚機が撃墜されかかるのはいつになっても慣れることはない。眉を八の字に下げ真っ青な顔で笑うシンを見て絶句したアインに後で来ると言えば何とか頷いたので未だ震える足で立ち上がり医務室から退室した。パイロットスーツから着替えて、状況を確認しなければ。
 圧迫されたように苦しい呼吸を少しでも楽にしようと首元を緩め床を蹴りながら進む。待機室のモニターには民間の流す番組で演説するクーデリアが映っていた。凛とした立ち姿で語る姿はかつての世界で見たリリーナやマリナのようだ。
 シンの知る女傑たちならば、どうしただろう。その片鱗を見せつけられ、シンは言葉を飲み込しかできなかった。



 格納庫で空になったコンテナを蹴りつけ悪態をつくカミーユに近付ける者はいなかった。
「アインって誰だよ!俺は…俺は大尉だから任せたんだぞ!!」
 殴りつけようとして、踏み止まり拳を抱え込んで激情を耐える姿はいっそ哀れだ。アムロは自機のコックピットからその光景を眺めため息を吐く。まさかシンが気持ちを移したなどとは考えていないがここまで一途に思う青年を親友扱いし続ける性質の悪さには辟易していた。
「カミーユ、操縦に触る怪我はするなよ」
 諦め交じりに声をかければ「分かってますよ!」と怒鳴り返されもう何も言えないと口をつぐんだ。シンは何を考えているのだろう。流されやすい子だとは思っていたがここまでではないだろう。ならば、何かシンが見捨てられないものがあったはずだ。
 耐えているカミーユを横目にνの戦闘履歴を流し見する。デスティニーは、シンは強い。躊躇いのない殺意を感じるのは久しぶりで背筋が震えた。
 誰もカミーユに近付けない。シンの事を知っているのはカミーユとアムロだけで、鉄華団の子供たちにとってあの子はただの邪魔ものだ。言葉を尽くしても分かりあえないことがある、そんなことはとうの昔に知っていたのに。
「三日月、シノ、さっきの戦闘中の音声データをこっちに送ってくれるか?」
 オープン回戦でいくらか会話していたはずだ。なにかカミーユを慰める材料があればいいのだがとアムロは送られてきた音声に耳をすませた。

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