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 シモンと竜馬と甲児のセーラー服の話。




 頭に包帯を巻き片頬をガーゼで覆ったシモンがせわしなく人の行きかう格納庫の片隅に、ぽつんと置かれたコンテナの上に座り込んでいた。見上げる先にはグレンとラガンに分離するスペースがないのでグレンラガンに合体したままの愛機が静かにたたずんでいる。自己修復機能を持っているグレンラガンはシモンが乗っているだけで少々の傷は修復してしまえるためメンテナンス以外ではほとんど整備士の世話になることはなかった。
 『国連』とかいう組織の事はよくわからない。そもそも国と言う概念を持たない閉鎖的な場所で生活していたシモンたちには地上はわからないことだらけだった。そのうえこの『ZEXIS』はことさら特殊な集団のようだ。
 寄せ集めと言ってもいいだろう集団は再び部隊を分けるがその前に一気に修理をしてしまおうという算段らしい、格納庫はいつも以上の忙しさだ。確かに、日本に残るシモンたちと母艦を持つソレスタルビーイングはまだしもエリア11に向かうゼロ達には専門のメカニックが黒の騎士団にしかいないはずだ。キリコやデュオたちはきっと機体のメンテナンスや修理くらい自分たちでしてしまえるのだろうけれど、皆リモネシアの一件で負傷し疲弊していた。この修理期間はパイロットたちの休養期間ともいえる。
 ただ、すぐに出撃できないほどのけがを負ったのはシモンと甲児、そして竜馬だけだったのは救いだろう。他にも怪我を負ったパイロットは居たが医師たちには出撃しても問題ない、と言われていた。。ワッ太や赤木たちが『ロウサイ』がどうのこうのと話していたがどうなったのだろう。
 彼ら『ミンカンジン』と刹那やデュオ達年少のパイロットの負傷は比較的軽い、流血するほどの怪我はシモンと甲児くらいのもので他は打撲がいいところだ。スメラギやSMSのオズマは気づいていたようだが、ブラスタやデュナミス等年長の者が駆る機体がかばうように動いているように見えた。シモンと甲児がそこからあぶれているのは単に位置的な問題で近くに居ればおそらく庇われたのだろう。
 突出していたグレンラガンとゲッター1は爆発から逃れることが出来なかった。頭部に搭乗しその時操縦系統を握っていたシモンは無我夢中で腹をかばった。おかげでグレンラガンの負傷度の割にカミナは無傷に近い、代わりに自身を守れなかったシモンは強かに頭と体を打ち付け破損した内部で怪我を負ったが。
 グレンラガンよりも前に居たゲッターはあえて避けていないようにシモンに思う。おそらく後方にいたガンダムやヴァルキリーたちの盾になったのだろう、機体サイズの大きなゲッターが爆発を遮ったおかげか機体サイズが小さく、また装甲の薄い彼らは直撃を受けることはなかった、それでも爆風に煽られ何機か負傷したものはいたが。
 マジンガーは先行する二機を援護しエネルギーを補給しようと一旦母艦であるプトレマイオスに収容されようとしていた時に爆発が起こったらしい。幸か不幸か、ほとんど反撃を食らうことなく進撃していたマジンガーはそのまま装甲の薄いプトレマイオスを庇い無理な体勢をしていた甲児は踏ん張りが利かずしたたかに額を打ち付けぱっくりと割れてしまったそうだ。だくだくと流血している割に本人はケロッとしていたが。その代わりにプトレマイオス自体はほとんど損傷することなく次の作戦行動に移れている。
「おぅ、シモン。何やってんだ」
コンテナに座り込んでいたシモンの頭上から声が降ってきた。驚いて振り仰ぐと左手を吊った竜馬が珍しくコートを着ないで立っている。トレードマークの赤いマフラーもない。
「竜馬!もう動いて大丈夫なの!?」
確か収容されたゲッター1から担ぎ出された竜馬は赤くないところかないほど鮮血で染まっていたはずだ。あの隼人が血相を変えて医務室に担ぎこんでいたのをよく覚えていた。
 乱暴な仕草でシモンの隣に座りこんだ竜馬はにやり、と見れば十人が十人とも凶悪面と呼ぶだろう表情を浮かべ顔の半分を覆う包帯を片手で器用に解いていく。慌てて止めようとするがすでに遅い、完全に解かれた包帯の下からは28歳と思えない滑らかな肌が姿を現した。うっすらと肉の盛り上がった後はあるがつい何日か前にぱっくり裂けた傷があったなど信じられない様子だ。早すぎる回復にシモンはぽかんと口を開ける。
「常人じゃゲッターには乗れねぇからな」
呆気にとられるシモンに竜馬が得意げに言った。この様子ではおそらく首から下にもぐるぐると巻かれている包帯の下ももうほとんど傷がふさがっているんだろう。シモンは自分の頬を思い出してため息を吐く、ふさがりかけてはいるもののまだかさぶたにはなっていないし少しでも触れば傷が開く。
「さすがに折れた骨はまだくっつかねぇけどな」
ぷらぷらと吊った左手を左右に動かしてみせる竜馬に少しだけ安堵する、折れた骨を3日やそこらで治されてはさすがに人間扱いできる自信がなかった。
「竜馬さん!何してるんだよ!」
怒っているような、焦っているような声を上げて近づいてきたのは比較的重症者に振り分けられた甲児だ。ぱっくりとわれた額はガーゼで止血され包帯を巻かれている。縫う程のけがではなかったらしいが頭ということで黒い髪の隙間から見える白包帯はいやがおうにも目を引いた。
 だがそれ以上にシモンの目をくぎ付けにしたものがある。小走りに近寄ってくる甲児の控え目な胸元に揺れる赤いスカーフ、そしてすらりとした足をひざ下まで隠す長いプリーツスカート、つまり
「セーラー服!?クロウの趣味か、あの野郎ぶっ飛ばしてやる!!」
スカート姿の珍しさにきょとんとするシモンと般若のような形相で怒りをあらわにする竜馬。対極な反応に足を止めた甲児は少々憮然とした表情になって二人の前に仁王立ちした。
「俺、一応女子高校生だから制服ぐらい着るんだけど」
俺をいくつだと思ってるんだよ、とため息を吐けばそういえばと竜馬がばつの悪そうな顔をする。
 聞けば熱海の一件以来休校になっていた学校が再開するらしく休学届を出しに行っていたそうだ。一応登校扱いになるので制服を着て行ったらしい。留年かなぁ、と遠い目をする甲児が憐れだ。
「竜馬は着ないの?」
学校と言うシステムがよく分かっていないシモンが純粋な好奇心で疑問を発した。一瞬にして静まり返る格納庫、甲児だけが一呼吸の間をおいて爆笑した。竜馬は石化したように固まっている。腹を抱えてうずくまる甲児にもきょとんとした目を向けそして静まり返った格納庫を見回す。日本の制服制度を知っているものは誰一人として目を合わせようとしない。
「・・・シモン、俺をいくつだと思って・・・」
未だ笑い転げる甲児の頭に手刀を落とし竜馬は大きなため息を吐いた。
「これを着るのは大体12から18くらいまでの女だけだ」
ブレザーなんかもあるらしいが竜馬の知り合いが着ているのは見たことがない。手刀を落とされたところを押さえて呻いている甲児が涙目になっていた甲児がざっくばらんな説明に補足をする。
 甲児の説明を真面目な顔をして聞いているシモン、そして視線を向けないまま作業を再開した整備士たち。ある種異様な雰囲気の格納庫の入り口から歩いてくる人影を見つけ竜馬は舌打ちをした。
「なんだ、着ないのか」
「誰が着るか!俺を変態にしたいのか!!?」
どこから話を聞いていたのだろうにやりとした笑いを隠そうともしない隼人が腕組みをしたままからかうように問いかけてくる。見下ろされることなど我慢ならないとばかりに勢いよく立ちあがった竜馬が噛みつくように言い返すがそれよりもこんなところで何をしている、という呆れたような隼人の言葉にぐっと言葉に詰まった。そこからは平行線の言い争いだ。曰く医師に絶対安静を言いつけられていたはずなのにこんなところで何をしているという隼人の言葉に寝ているだけなど退屈で腐ってしまうという竜馬の反抗。負傷が頭と言うことで一応安静を言い渡されていた甲児とシモンも顔を見合わせて苦笑いをする。医師の方も体はすこぶる元気な二人をベットに縛り付けられるわけがないとため息交じりだったのだからこの程度は許されるだろう、と言うのは二人の言だ。もちろん双方の保護者と保護者代理がそれを許すわけがなかったのだが。
「お前たちも無関係のような顔してるがカミナとクロウがすごい顔して探していたぞ」
どうやら痴話げんかも終了らしい。水を向けられた二人は頬が引き攣るのを感じて返答に困った。単純明快なカミナよりも面倒なのはクロウだ。本人が自称しているわけではないがメンバーの中で唯一甲児の祖父と直接面接のあったクロウは操縦は素人同然の甲児を何かと気にかけてくれている。それが他のメンバーから見れば保護者のように感じるのかもしれない。それはともかく面倒なことになったと甲児は頭を抱えたい思いだった。
 言葉で長々と言わない代わりに態度にでる。ロックオンや彼の性質に近しいものは無意識だろうと苦笑いしていた。じっと、甲児が気付くほどに追ってくる視線は不快でない代わりにどうしようもなく落ち着かない気分にさせられる。傷の処置後に医務室を訪ねてきた彼が自分が傷を負った時よりも痛そうな顔をして包帯に触れたことを思い出して知らず頬に熱が集まった。
「アニキ、怒ってるかな」
コンテナから飛び降りたシモンが眉を八の字にして呟いた言葉にはっとして意識を戻す。かぶりを振って頬の熱を飛ばし、弟にするようにその小さな頭を撫でた。
「心配してるだけだって、大丈夫」
ほっとしたように表情を緩めたシモンが弾みをつけてコンテナから飛び降りる。背を向けて歩き出していた竜馬に追いついて普段隠れている腕を引く。なんだとばかりに向けられた視線の先には純粋な好奇心だけを映すシモンの目。
「竜馬もあの服着てたの?」
過去形にされてしまえば言葉に詰まるしかない。隼人が吐息で笑った気配を感じ取った竜馬はぎろりと隣を歩く長身を睨み付けた。
「写真があるぞ、見るか?」
にやり、とやはり悪人面で笑った隼人の言葉にシモンがぱっと顔を輝かせ竜馬は顔色をなくす。
「あ、俺も見たい!」
片手をあげて主張する甲児の首をがっちりホールドしじたばたと暴れる細身の体を吊ってない方の手で押さえつけた。片手の自由にならない体でそうするのはさすがの竜馬でもてこずったがそうでもしないと甲児は今にも竜馬たちの部屋に飛んで行ってしまいそうだ。そうなってしまえば武蔵は子供たちに望まれるまま快く見せてしまうだろう、存外あの男は子供好きだ。シモンは暴れる二人に巻き込まれないよう隼人側に回って次の言葉を待った。正直、竜馬の少女時代など想像もできない。
「なんでんなもん持っていやがる!!」
甲児を押さえたままだから手が出せないのだろう、その分凶悪なまでの表情で竜馬が隼人を怒鳴りつける。しかし慣れている隼人は涼しい顔で何年の付き合いだと思っている、と返していた。なるほど、コウコウセイからの付き合いだからこそああも息の合った合体とチームワークなのかとシモンは大いに納得して感心した。コウコウセイの意味はちっとも分からなかったが甲児がそうだというのならもう10年近い付き合いだろう。
「腐れ縁だ!くそっ・・・」
毒づきながら自動扉をくぐる竜馬と未だ竜馬の腕にホールドされたままの甲児、隼人の痩身ながら大きな背に続いてシモンも格納庫を出る。彼らが去った後に整備士たちが安堵したのは言うまでもない。
 それからシモンが兄貴分に叱られ、甲児が借金持ちの無言の重圧に耐えきれなくなった頃そっと隼人に呼ばれたのは別の話だ。
 

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