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もう少しだけ続きます。




  ライルはようやく慣れてきた艦内を散策していた。訓練と訓練の間にぽっかりと空いてしまった時間、出撃もない今日は比較的穏やかで普段は賑やかに過ごしているシンたちは打ち合わせとかでイカルガに移動している。
 刹那もどこかへ出かけて行きティエリアはスメラギと何事か話している様子だ。ありていに言えばライルは暇を持て余している。ハロはフェルトの元に残してきたので自主的にシミュレーションをやるのも物足りず、ぶらぶらと通路を歩いていた。
 展望室へ向かう角を曲がった時、向かいから少々慌てた様子のアレルヤが小走りに向かってくるのをみて嫌な予感を覚える。案の定ライルの姿を見つけたアレルヤはぱっと顔を輝かせて「ロックオン」と呼びかけてきた。
「クロウ見ませんでした?スメラギさんが呼んでるんだけど」
 ライルが一瞬眉を顰めたことに気付かずアレルヤは肩を落としながら問いかけてくる。いや、と答えればあんまりにもしょげた顔をするので、ライルはつい俺も探すのを手伝うと申し出てしまった。
 一番の理由は暇だったからだ。
「じゃあ俺は格納庫見てきてやるよ」
ひらひらと手を振ってとてもテロリストには見えない穏和な顔をした青年に背を向ける。広い艦内だ、すれ違うことがあるかもしれないがそれはそれだろう。
 すれ違う仲間に見なかったかと聞けば食堂だの格納庫だの展望室だの、よくよく身の軽い男だ。いちいち覗いて回るのもめんどうくさくライルは結局当初の目的通り真っ直ぐに格納庫を目指した。
 MSの足元ではなく腰の辺りの通路から身を乗り出せば案の定、ついさっき食堂で目撃したと言われたクロウはそこにいた。予想と違ったのはそこに黒塗りのスーパーロボットが佇んでいて、その足元でパイロットの少女と談笑している姿でライルは見たことのない優しい顔をしたクロウに少しだけ面喰った。
 会話までは聞こえてこないが仲がいいのだろう、少女の頭を撫でる手つきは丁寧でとてもではないが先日コップを割れんばかりに握りしめていた男と同一人物には見えない。いつまでも覗いているのも悪趣味だろうと梯子を伝って降りればライルに気付いたクロウがぱっと甲児の頭から手を外した。
「クロウ、スメラギさんが呼んでるらしいぜ。艦内放送で呼びだされる前に行った方が良いんじゃないか?」
 気づかなかったふりをしてクロウに話しかければにこりと笑いながら「そうか、わかった」と答えるクロウが軽い調子で甲児に背を向けて出口へ歩き出す。口元は笑っていたが目が笑っていなかった、つまり、少女との関係は片思いか秘密なのだろう。
 なんとまぁ、甘酸っぱくて反吐が出る。
「…馬鹿だよな。ばれてないと思ってんだぜ」
 ふふ、と甲児の瑞々しい唇から吐息が漏れた。クロウとほぼ同じ位置の視線から少女を見下ろしてみる。体のラインに沿ったパイロットスーツはただひたすらに成長途中の薄い身体を浮き上がらせ、正直魅力など欠片も感じられない。
「まぁ、あいつはあれでいいんじゃねぇの?いまひとつ詰めが甘いとことか」
 それほど話をしたことはなかった。日本人らしい真黒な目がライルの緑の瞳を見上げ微笑む。黒目の中に一抹の苛立ちを隠したまま甲児はよく日に焼けた少女らしい顔に満面の笑みを浮かべた。
「だよなぁ」
 ライルから視線をそらしてクロウが出て行った扉を見る甲児の顔から考えを読み取ることは難しい。そもそも別の艦に乗船している甲児と話す機会もあまりなかったのでこの少女がどういった経緯で部隊に参加しているかすらライルは知らなかった。
 興味がなかった、と言い換えてもいいかもしれない。
「…借金まみれだし貧乏くじだしお人好しだけど良い奴なんだよ」
 愛しげに言う少女もクロウに恋しているのだろうか。もやもやとしたものが胃の底にたまっていくような不快感を押し隠しライルは意地が悪そうににやりと唇を歪めた。
「あんた、あいつがよっぽど好きなんだな」
 からかうように聞こえていればいい。ライルの抱えた不快感も怒りも、甲児にぶつけるべきものではないことを、よく分かっているつもりだった。
 甲児の大きな黒目がちらりとライルを見上げ少女の赤い唇が吊り上がる。
「そりゃそーだろ。『オツキアイ』してんだからさ」
 ぎょっとしたように身を引いたライルに満足したのか少女が快活な笑い声を上げた。傍から聞いていればいつも通りの楽しげな声に聞こえたかもしれないが、あてつけのように言い放たれた言葉はライルの心臓を抉り弾丸のように突きぬける。
 何か言うべきなのだろうがライルの言語中枢は完全に機能を停止しているようだ。エサを求める金魚のように口を何度か開閉させて、やっとひねり出せた言葉はひねりも何もない「そうか」の一言だった。
「そうだよ」
 それから続けて甲児は何か言いたげにライルを見上げつづけ、小さな舌で唇を湿らせたが、何も言わず小さく息を吐いて肩を竦めた。
「言いたいことがいっぱいあったはずなんだけど忘れちまった。そもそも顔が似てるってだけであんたに言ってもしょうがないもんな」
 あんまりにもあっさりとこぼされた言葉に瞬きを繰り返す。ライルが呆然としている間に甲児はパイルダーに向かって歩いていき、身軽にタラップへと足をかけた。はっとして駆け寄れば少女らしくない諦念を滲ませた口元が笑みを刻みライルを見下ろす。
「あいつ、この一年休暇取っちゃ宇宙に行ってるんだぜ?笑っちゃうよな」
 それは、宇宙で命を落とした姉を関係があるのだろうか。ライルには分からない、分かろうともしたくなかった。
「お前…お前はそれでいいのかよ!!」
 叫びに似たライルの怒鳴り声に甲児はヘルメットをかぶりながらゆるく首を振る。ライルは怒鳴り散らしたいような気持を飲み込んで睨みつけるように甲児を見つめた。
 彼らの関係に、ライルはどこまで部外者だ。
「約束したんだ。だから、今はこれでいいよ」


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