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書きためていた分はここまでとオチだけなので間の話は気長にお待ちください。
オチを公開するかどうか迷ってます。




 エース機と呼ばれるシュヴァルベに乗り換えたアインはより苛烈に攻め手を取るようになってきた。シンの様に専用機ではないが量産のグレイズよりもずっと繊細に、思うように動くのだろう。シミュレーターで付き合いながらそろそろこちらのグレイズを借りるのは厳しいなと考え始める。
 デスティニーのデータを渡すのは如何なものかと躊躇していたのだが整備に渡さないわけにもいかない。先日のバアルとの戦闘で何発か貰ってしまって、自力でどうにかできる範囲を超えていた。
「ダルトン三尉!次はデスティニーでやろうと思うんだけど」
 汗をぬぐいながらコックピットから顔を出す。先に降りて整備士と何か話をしていたアインが弾かれたように顔を上げシンを見る。いいのかと問いかけるようような表情に微笑み返せばほんの少しだけ口角が上がった。普段は鉄面皮の様に動かないくせにこういうときだけ喜色を乗せて目を輝かせる姿は新兵らしい。年はシンとそう変わらないがシンの初陣は16歳でそれ以降ずっと転戦を繰り返している。
「特務三佐へ確認を取ります!少々お待ちください」
 シンがその気になるまでは決して機体に触れるなと厳命してくれたガエリオには感謝している。彼も一角のパイロットだ、自機を勝手に弄られるのは好まないことをよく分かっていた。
 尻尾が生えていたらきっと千切れんばかりに振られているのだろう、押し殺したような常の声とは違うほんの少し弾んだ声がガエリオに通信を入れるのを遠く聞きながらシンはパイロットスーツの前を開け腰を反るようにして痩身を伸ばす。
 10分後、何故かパイロットスーツを着込んでやってきたガエリオ・ボードウィン特務三佐殿にシンとアインはそろって頭を抱えた。
「何だお前たち、ふたりだけで楽しむつもりだったのか?」
「特務三佐のトレーニングはあと2時間ほど後の予定では?」
 素直に疑問を口に出したとは考えづらい、けれど嫌味には聞こえない口調でアインが問いかければガエリオはばつが悪そうに口をへの字に曲げた。
「書類にずっと向かい合っていてもつまらん。俺は武官だぞ!?まったく、マクギリスのやつ腕が鈍ったらどうしてくれる」
 つまり息抜きに来たという事だろうか。体格は随分と大きいのに子供のようなことを言う人だとシンは笑い出してしまわないように口の端を引き攣らせて耐えた。
 予定を変更すると言うガエリオにアインは短く答え自身の端末を手元に操作し始める。こうなるとシンは手持無沙汰になるので「先にデスティニーの調整をしてきます」と一言断って自機に向かって足を進めた。低重力の中、軽く足を踏みきってコクピットに取りつき体を滑り込ませる。身にまとうのは慣れ親しんだザフトの物だ。ギャラルホルンのものを貸し出そうとシンの身柄を預かってくれている貴人はいうのだが案の定というかサイズが合わず断念した。
 炉に火を入れる瞬間、今まで弛緩していた意識が覚めるように冷えて行く。スレイプニルの優れたメカニックたちによって短時間でセットアップされたシミュレーターを起動させ画面に流れる情報をチェックしていく。
『まずはアインと一戦、そのあと俺ともしてもらうぞシン』
「はっ!設定は宇宙でよろしいですか?」
 不敵に笑うガエリオからの通信に生真面目に聞こえるように返してシンは笑いそうになる口元を引き締めた。これでもザフトのトップガンなのだ、悪いが専用機に乗って負けるわけにはいかない。







 圧倒的、というのはアインに失礼だろう。ガエリオは手を叩いて喝采を送りたいほどに高揚する気分を押さえ、口元を笑ませるだけに留めた。
 流れて行く戦闘データのデスティニーの動きは無駄が無いように見える。MSを手足のように扱う兵士を彼も多く見てきたがこうも的確に手足だけを吹き飛ばされるとは思わなかった。実戦経験の少ないアインが撃墜数でダブルスコア以上離されているシンに敵わないのは当然だと思っていたが。
『もう一度!お願いします!!』
 悔しげなアインの声に笑いながら許可を出す。シンの声は聞こえないが間をおかず始まった二戦目でも戦況はそう変わらない。
 機体性能だけならば、キマリスとそう変わらないだろう。だが潜り抜けた死線が違う。何度目かの模擬戦の後、メカニックに引きずり出されるようにコクピットを出たアインの額からは滝のように汗が滴り落ちていた。
「どうだ?アイン」
 いらだたしげに自分のタオルをとって汗をぬぐうアインの表情を見れば答えなど分かりきっていたがあえて声に出して確認する。
「悔しいですが圧倒的です。シミュレーターで死を覚悟するなんて…!」
 澄んだ濃い青の瞳はガエリオを映していない。妹にするように低い位置にある頭を撫てるとようやく目の前に居るのが上官だと気づいたのかはっとしたように濃い睫にふちどりされたサファイアがガエリオを視界に認めた。
「グレイズ相手にやっていても勝率が1割を越えなかったのに何を言っているんだ。俺に任せておけ」
 ぐっと唇を噛みしめる表情は納得していないように見えるがそれでいい。パイロットなど負けん気が強くなければ務まらないのだから。
「このまま続けるんです?ちょっとくらい休憩をくださってもいいんですよ?」
 対して、こちらはほとんど汗もかいていない。ゆったりと降りてきて不満げに口をとがらせるシンの態度を諌めてもいいのだが直属でないどころか所属する世界すら違う相手を気遣う道理をガエリオは持ち合わせていなかった。
「では俺とアインが相談している間体を休めておいたらいいだろう。まだ余裕に見えるがな」
 分厚いパイロットスーツ越しにも強張っていると分かる肩を抱いてシンに背を向ける。端末を覗きこみながら顔を近づければ汗に濡れた髪から石鹸の香りがした。
「と、特務三佐!近くはありませんか…?」
 咄嗟にガエリオを押し返そうとしたのだろう脇腹に触れる掌は抵抗するには力が弱い。こんなところで遠慮する必要はないのにと思いつつガエリオは肩を抱く腕に力を込めた。
「なに、秘密の作戦会議だ。聞こえてしまうと対策を取られるぞ」
 戦後の高揚で火照っていた頬がさらに赤く染まる。それでも端末を見ながら話を進めるとその表情は一瞬でガエリオとの距離を忘れたように真剣なものに変わった。
 視界の端にメカニックから端末を受け取るシンを捉えながらどう仕返ししてやるべきか声を潜めた。

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