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クロ甲です。甘さ2割増しです。









 ぐったりと畳の上に横たわるクロウに呆れたような顔を向け団扇で風を送る。つい先日までオーストリア付近で次元獣と戦っていたというクロウが気温差と日本特有の湿度にばて気味だったのは知っていたがどうしてその上長湯などしたのか、甲児には理解できない。
 偶々湯治に来ていた竜馬と一緒になり負けず嫌いが発動してどちらが長く入っていられるかを競っていた。と些か申し訳なさそうにクロウを担いで上がってきた竜馬に謝られてもだ。
「悪いな」
目の上に濡れタオルを乗せながらかすれた声で言うクロウ。
「ほんとだよ。こんな無茶するなんて」
 ため息を吐けばさらにもごもごと謝罪を重ねたようだがあいにく聞き取れない。大事にならなかったからよかったものの脱水症状でも起こしていれば病院に担ぎ込まれただろう。
「大体、江戸っ子の竜馬さん相手にうちの熱いお湯で長風呂勝負なんて負けるに決まってるだろ」
 くろがね屋は源泉かけ流し、夏でも四十一度の熱めのお湯が自慢なのだ。ざぶんと入ってさっと上がる。基本がシャワーのクロウ達欧米人には辛いだろう。
「うちのお湯、か…いい響きじゃねーか」
 小さく笑った気配に頬が熱くなる。無意識に言ってしまった言葉の揚げ足を取るなんて!
「馬鹿言ってないで水飲んでさっさと寝ろ!」
 布越しに団扇のふちで叩けば小さく非難の声が上がる。先ほどよりも随分マシな声色にほっと肩の力を抜いた。
「く「口移しで飲ませてくれとか言ったら脳天かち割る」
二年、もう三年近くなる付き合いでこの男が甘えてくるタイミングは分かっている。見るからにしょげているがここで甘やかしてはいけないのだ。
「明日、体調良くなったら買い物行こうぜ。女将には言ってあるし」
 本当はもっと早く言ってやりたかったのだがそれで張り切られて熱中症で倒れても困る。相手は甲児よりも年上で体が大きいのだから運ぶなどできない。
「会うの久しぶりなんだから、これ以上放っておくなよ?」
 からかうように言ってまだ湿気の残る深い藍色の髪を梳いた。
「悪い、善処する」
叱られた子供の様に口をとがらせて言うクロウに小さく笑う。
 笑われたのが気に入らなかったのか大型犬のような男がごろりと寝返りをうつ。額から落ちる布に気を取られて正座している甲児の膝に頬を押し付ける。
「こら、大人しく寝てろ」
 言いながらも好きにさせるところが惚れた弱みなんだろうか。むずかるように腹に顔を押し付けるクロウを可愛いと言ったら多分、シンやカミーユにすごい顔をされるのだろう。
「もうちょっと」
 くすぐったいが仕方ない。犬にするようにわしゃわしゃと髪を撫でてやれば抱きしめられる腕に力がこもった。
「仕方ないなぁ」
 柔らかい癖毛の隙間から優しい夜色の瞳がのぞく。嬉しそうに細められた眦にどきりとして肩を跳ねさせた。






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