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しょうがないよね。思春期だから。

 嫌なら、蹴飛ばしてでも逃げろ。拘束される手首にいたいほどの力を込めておきながら言われた言葉はまるですがりつくかのように、力なかった。


 泣きすぎた日の朝のように鈍く痛む頭はなかなか覚醒してくれない。ぼんやりと目を開けて見るとすぐそばにシャツをまとった背中が見えた。
 喉がいたい。確かミネラルウォーターが冷蔵庫に入っていたはずだと思い出して隣で寝たふりを敢行する友人を刺激しないように起き上がり、あらぬ場所への激痛に声もなく崩れ落ちた。
 「シン!」慌てたように飛び起きた友人と目が合う。濃紺の目は困ったようにシンを見下ろした。
「カミーユ、水とって」
ひどい声だ。クワトロ大尉が出張中でよかった、などどうでもいいことを考えながら(だってあの人は時にアムロさんがする以上にシンを大事にする)無言で冷蔵庫に向かったカミーユの背を見る。しょぼくれた背は自分を責めているのだろう。やれやれと吐きそうになったため息を飲み下してゆっくりとベッドのふちに腰かけた。
 冷えた水が喉を潤すが同時にピリピリとした痛みも伝えてくる。いつもの下着と寝間着を身につけているとまるで何にもなかった朝のようだが腰と喉、それから痣になった手首がシンを現実に引き戻した。
 どちらも口に出すのを躊躇い出方をうかがっている。特に加害者(であるはず)のカミーユは床に正座でもしそうな勢いだ。というかさせた。ちょっとカミーユ、そこに座りなさい。丁寧な、あるいは茶化すように言えば判決を待つ罪人のように素直に従う。今度こそため息をついてそっとペットボトルを床においた。
「ごめん」
気持ち悪いよな。と続けられた言葉に驚いて言葉につまる。それをどう勘違いしたのか、やれ部屋をかえてもらうだの異動願いを出すだの真摯に続けられる言葉。それでも、お前がと続けられた言葉にシンは思わずカミーユの口を思いきり手でふさいだ。素早くうごいたせいで鈍痛が酷くなるが構うものか。むしろその言葉を続けられる方がいたたまれない。
 どう言えば伝わるのか。そもそもこれを一夜の過ちとして処理することは出来ないのだろうか。出来ない。自問自答を繰り返すシンをカミーユがやはり困ったような顔で見上げる。
 正直なところバカ野郎と殴ってもよかったし近すぎた距離から一歩引くのにも良い機会なのかもしれない。けれどシンは思い浮かべるもっとも普通の友人らしい選択肢のどれも選べなかった。
「カミーユは、そのー…」
なんと言ったら良いのやら。欲求不満だった?俺と付き合う?友達でいましょう。どれも違うような気がする。
「シン、俺の事が嫌いになったか?」
うんうんと悩む間に口を封じていた手を労るようにとられた。
 嫌いになんてなるわけがない!反射的に口から出た言葉にカミーユは目に見えてほっとして珍しくもその目に涙を浮かべていた。
 困ったことに、この人が嫌いではないし嫌いになれるはずもない。普通の友人の距離からは近すぎてけれどシンの中でこの関係を恋人と呼ぶのもしっくりとこない。
「カミーユは、俺とどうなりないんだ?」
仕方がないので手っ取り早く答えを求めてみる。しかしカミーユもきょとんとしてそれから深く考え込んでしまった。
 相変わらずベッドに腰かけたシンの両手はカミーユに握られたままで、カミーユは床に正座している。
 非番でよかったなぁ、とか非番を狙ったのか!?とか思いながらもシンは黙ってカミーユの言葉を待った。
「俺は、お前が好きだ」
慎重に、言葉を選んでいる。もしかするとカミーユ自身明確な何かを持っておらず今ここでそれを結んでいるのかもしれない。
 たっぷりと時間をかけてからカミーユが口を開いた。
「…好きだ。それ以外の言葉が見つからない」
なんだそれは!シンは思わず脱力して頭を垂れた。大きくため息をついて肩をおとす。
 だがふと労るように握られた手が小刻みに震えているのに気付いた。瞬いて顔を上げれば自分が口走った言葉の意味を今更ながら理解したのか珍しくも(今朝は珍しいことだらけだ)顔を真っ赤にしたカミーユが目線をさ迷わせている。
 たまらず天井を仰ぐ。嫌いじゃない、嫌いになれるはずがない。それは、つまり
「…俺もっ…俺も、カミーユがすきだ」
困ったことにそういうことなんだろう。


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