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チェンゲの竜馬さんが一番好きですが一番かっこいいと思うのは新ゲの竜馬さんです。月基地のブラゲをくみ上げるまでの数か月一人だとさみしいと思ったのでもう一人足してみました。


 もう愛しいとか恋しいとか、そういうのじゃねぇんだ。そう言ってゲッターの部品を組み立てに戻った男の背中はコートに隠れてわからないがしょぼくれていたのではないかと思った。



 この月面に廃棄された基地には二人の流れ竜馬がいる。曰く、インベーダーと戦い後に投獄された28歳の男。曰く、鬼と戦い後にゲッターに勝つためひとり戦い続けることを選んだ20歳の女。女は、あぁまた変なとこにとんじまったのかとのんきに構えていたが男の焦りようは尋常ではなかった。親父の隠し子か、はたまた隼人と早乙女の研究結果かと一通り錯乱し、最終的に女の下手な説明に落ち着いた。つまり、おそらく、ゲッターというエネルギーの起こす不可思議な現象の一つだろう、と。もう10年も乗っている上につい少し前に取り込まれ再生されたばかりだ。いちいち驚いて考え込んでいては身が持たない。
 壊れたゲッター1のコックピットで目覚めたとき膝にやたら軽く柔らかいものがのっていた。見下ろせばかつて身にまとっていたパイロットスーツを身にまとった自分そっくりの女が居た、というのはなかなかにホラーな体験ではあったが。
「なぁ、なぁって!」
会話の大体は女からだ。なぁ、とかおい、で呼ばれるのにも慣れた。男は手を止め女に目を向ける。
「あんたんとこにも隼人と弁慶はいたんだろ?どんな奴らだったんだ?」
女はよく聞きたがった。男も隠すようなことではないのでぽつぽつと語る。男は会話を楽しむということを久しくしていなかったので言葉選びに困り疲れることもしばしばあったが問われれば答えることをやめようとはしなかった。ただ、ミチルの事だけは話して聞かせることはできなかったが。
 女のことは聞くまでもなかった。男の話を聞いていても聞いていなくても自分から話し始めるからだ。聞いていて分かったことは隼人が狂気的で武蔵という存在がいないことくらいだったが。
 男は知らないが女も身の上話をべらべらとする方ではない。証拠に借金云々と父母の事は一つも話題にならなかった。男と女の共通項は互いにゲッター1およびイーグル号のパイロットである事くらいだ。それでも女が口を閉じなかったのは二人きりという空間に居心地の悪さを感じていたからだ。かつてあの巨大なゲッターに感じたものではなくもっと表面的なずれを女は男に感じていた。
「あんたも隼人が好きなのか?」
女が屈託もなく聞いた言葉にかじりかけていたレーションをぶっと吹き出す。どこで見つけてきたのか作業着に着替えていた女は文句を言いながらもさっと避けた。男はしばらくむせ続け、女は好奇心で目を輝かせながら次の言葉を待つ。
「お前俺の話を聞いていたか!?どこをどうとればそうなる!!」
男が掴み掛らんばかりの勢いで女に詰め寄る。女はにやにやとした表情を崩さないまま男を睥睨した。
「やーっと素の顔出しやがったな」
ぐっと言葉を詰まらせ忌々しい思いで女を睨み付ける。にやにや笑いをひっこめた女が鼻先がくっつきそうなほど顔を近付け男の襟ぐりを掴んだ。
「意識してんのかしてねぇのか知らねえが、てめぇ何考えてやがるかわかんねぇんだよ」
口をふさいでやろうか、一瞬そんなことを考えたが竜馬に自己愛の気はない。小さくため息をついて女を押しのけた。
「3年」
男が背を向けて立ち上がる。座り込んだままの女は足を組みなおして男を見上げる。
「3年、あの男に対する憎しみだけで生き抜いた」
鎖が揺れる。男の手首にはまる手錠の事は詳しく聞いていない。女も決して他人に胸を張れる経歴をしているわけではないので聞かなかったし男も話そうとはしなかった。
「他人を信用することもなかった」
だから、だからなんだというのだ。女は父が死んでから一人で生き抜いたし、これからもひとりでゲッターと戦う覚悟をかためて地獄に飛び込んだ。
 三人でいるのは苦痛ではなかったし隼人のことは気に入っていたのだと思う。有り体に言えば好きだったのかもしれない。
「よくわからねぇな」
女が鼻で笑うと男はちらりとだけ女を見た。
「・・・もう、愛しいだとか恋しいだとか、そんなんじゃねぇんだよ」
そのまま男は出て行ってしまう。女は黙ってぱさぱさに乾いたレーションを咀嚼した。



 ゲッター1のような、少し違う組み上がった機体を見上げて女は少し笑った。男は自分より少しばかり小さい後ろ姿を見て口を開きかけ、何も言わないまま口を閉じた。
「行くんだろ?早くしろよ」
女が振り返りにやりと笑う。女の体にはゲッター線がはしり格納庫内のゲッター線濃度も上昇している。
「俺も迎えが来るみたいだし。ま、悪くなかったぜ」
廃棄された基地内にも少しばかり物資が残っていたため着替えをしたりもしたが今の二人は出会った時のくたびれたコートと似ているようで少し違うパイロットスーツ姿だ。
 男が女の隣を通りすぎ組み上げたゲッター1に近づく。タラップに足をかける前に一度振り返った。
「お前も」
ぽつりとつぶやく。
「お前も、また会いに行けるといいな」
女は虚を衝かれた様に目を見開き、言葉の意味を理解してたまらずふきだした。
「余計なお世話だ!!」
からからと笑いながら罵倒の言葉を吐く女に男も微かに笑った。
「じゃあな」
女が片手を上げる。男は黙って待った。目視できるほど濃度の上がるゲッター線に呼応するように女を包む青緑の光が強くなる。ひらりと振られた右手を最後に一層強くなった光にのまれるように女の姿がかき消えた。同時に危険域まで上昇していたゲッター線が嘘のように静まり返り廃墟から人の気配が失せる。
 最後まで見送った竜馬は口を引き結びタラップを駆け上がった。コックピットに座りゲッター線を機体に流す。飛び出せばいつかは三人で見たそらが視界いっぱいに広がった。

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