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 酔っ払いにからまれる甲児ちゃんと酒が入ると調子に乗るクロウ。


 一瞬、何をされたのか理解できなかった。 甲児は真っ白になった頭にこれまでの経緯が走馬灯のように駆け巡るのを感じていた。
 一先ずの索敵を終え次元獣やインベーダー等予測不能な襲撃以外はないと踏んだZEXIS一行は先日加わったZEUTH、そして国連より派遣されたスザクを迎えてのささやかな親睦会、と言う名の宴会を開いていた。夕食の時間から始まったそれは9時を越えはしゃぎ疲れた子供たちが部屋に引き上げた後には親睦会と言う名目はどこへやら、酒宴になるのにそう時間はかからなかった。ミス・スメラギの秘蔵が持ち込まれたこともその一因だろう。とはいってもパイロットの大半が飲酒年齢に達していないという異常な集団なのでその人数はそう多くはない。コーディネイターとして成人年齢に達しているというシンとルナマリアはダイガードチームと夜の待機当番を代わっていてこの場にはいないので飲酒年齢は18歳に統一された。当然高校生たちは入っていない。もっとも日本で生活していた未成年は遠慮しているようだったが。
 ワッ太や勝平を部屋に送った後食堂にもどった甲児は酒の入った集団を見てできるだけ絡まれまいと厨房にこもり無心につまみや料理を作り続けた。集団の向こうでスザクが絡まれていたが助けに行けるほど甲児の酔っ払いに対する経験値は高くない。
 スザ子、踊りまーす!など聞こえていない。そうだ、オレンジのプリーツスカートなんて見えない。そっと目をそらすのも仕方ないだろう。某七変化の主題歌なんて聞こえてこない、と必死に自分に言い聞かせる。
「よぉ、こんな時まで家事しなくてもいいんだぜ」
ついでだからと夜勤組の夜食と明日の朝食の下ごしらえをしているときにカウンター越しに声をかけられた。慣れ親しんだ声色に顔を上げれば琥珀色の液体が入ったグラスを片手に顔色一つ変えていないクロウが苦笑を浮かべて甲児を見ている。
 ちなみに今夜の待機はゲッターチームと21世紀警備保障、そして竹尾ゼネラルカンパニー(大人)の当番であったが民間の企業でたまには気晴らしが必要だろうという上の判断で軍に所属し慣れているといって希望したシンとルナマリア、そして社交的な場が苦手だというカミーユが代わりに入った。酒がふるまわれる場だというのにゲッターチームがそう気にしていないことが少々意外ではあったが。
 ちょうど出来上がったばかりの味噌汁を少しだけ椀によそいクロウに差し出す。
「味見してくれよ。いいんだ、料理するのは嫌いじゃないしこの状況じゃ明日の食事当番も・・・なぁ?」
黙って食堂の方に視線を向ければスザ子の番は終わったのか即席の台上ではアルトとミシェルが出る出ないの攻防を繰り広げ、酔っ払いはやんややんやとやじを飛ばしている。隅の方では大騒ぎしていたグレン団が雑魚寝しているしスメラギに近い場所はもう目を向けたくない惨状だ、つまり死屍累々。あの蟒蛇のペースで飲んでいたら常人ではあっという間に潰されてしまうだろう。
 美味い、と言って味噌汁を飲み干すクロウに視線を戻さないままエプロンを外したたみ始めた。思えばここで彼を見ていればよかったのだ。味噌汁の入った寸胴鍋に蓋をして、夜食のおにぎりを乗せた大皿にラップをかけ沢庵を入れたタッパーを用意する。
「俺も竜馬さんたちに夜食届けたら寝るよ。明日の朝食は気にしないでいいからって伝えて、あとクロウもあんまり飲みすぎるなよ」
カウンターを回って厨房から食堂に出る。おやすみ、と言ってカウンターに用意した夜食をとろうと振り向いたときようやく眼前に迫る武骨な手に気付いた。反射的に肩をすくめて目をつぶれば降ってきた衝撃はあまりにも軽い。優しく頭を撫でられ恐る恐る目を開いた。
 開かなければよかったと後悔した。
「お前、ほんとえらいよな。今日も宴会に水差されないように索敵頑張って疲れただろうに」
普段は言動が守銭奴で微妙なせこさが目立つ3枚目なクロウだが顔はいい、すらりとした長身はしなやかに鍛え上げられまっすぐに立つ姿はモデルのようだ。青みがかった紫の瞳は眦が下がり優しげで甘い、普段でさえどきりとすることが多々あるというのに。
「あ、あのクロウ?近くないか!?」
頭を撫でていた節くれだってたこだらけの長い指が輪郭をたどるのをどこか遠くに感じながら背に冷たい汗が伝うのを感じていた。鼻先が触れそうなくらい近くにあるクロウの目は得体のしれない熱が宿っているようで、うるんでいる紫から目が離せない。いつの間にか腰に手を回されて甲児は体をこわばらせた。いくら竜馬達に鍛えてもらっているとはいえ発達途中の少女の体、力で成人男性に叶うとは思えない。力でなければ技で、と一瞬浮かぶが軍隊格闘技を習得しているクロウには技でも勝てる気がしない。最終手段で痴漢の撃退法を思いつくがそれをするには甲児は非情になり切れなかった。今さらながら押し返そうとクロウの胸に手を置くが力いっぱい押してもびくともしない。輪郭をたどっていたかさついた指はいつの間にか顎にかけられ顔をそらすこともできない。
 惚けているような顔でじっと甲児を見下ろしていたクロウが不意に微笑む。子供のような無邪気な顔に一瞬目を奪われ、そして。
 額に柔らかく暖かい何かが一瞬触れて離れた。
 あっけないほど簡単にクロウの両手は甲児を開放し放心している甲児の頭を最初にやったように優しくなでた。
「早くそれも消えたらいいのにな。日本だとなんていうんだっけか、相手に責任をとらせるんだったか?」
いつかのインペリウムが現れたときの負傷の痕を言っているのだろう。もうほとんど消えた額の傷痕に無意識に手をやる。
「安心しろ、お前は可愛いから嫁ぎ遅れることはない!俺が保証する」
拳を握って力説するクロウをいまだ放心したまま見上げる。クロウはもう一度甲児をぎゅうと抱きしめ、まるで未練など無いようにくるりと反転して再び宴の真ん中に戻っていったのだが甲児はそれを見送ることが出来なかった。
 膝から崩れ落ちるというのはこういうことなのだろうか、クロウの瞳から焦点が外れた瞬間体を支えていられずその場にへたり込んだ。両手で顔を覆いうつむく。
「兜甲児、こんなところで何をしている」
幸か不幸か、さっさと部屋に引き上げていたはずの刹那が小腹をすかせ食堂で戻ってきた。顔を上げることが出来ず黙って首を左右に振る。形容しがたい表情になっているだろう自覚はあった。そうすると刹那は何を思ったのかしばらく考え込み夜勤用の夜食と思われるおにぎりの皿を見つけるとそれを片手に甲児の上腕を持って少々強引に立たせた。
「あそこにいては絡まれる。スメラギ・李・ノリエガの酒癖は悪くないが他のやつがどうかはわからない」
ずんずんと刹那に引っ張られて廊下を歩くうちにようやく顔のほてりがおさまってきた。
「悪かったな、刹那。もう大丈夫、だと思う」
そっと顔を覆っていた手を外すと刹那が無表情に甲児を見る。刹那の表情が動かないのはいつもの事なので普段であれば気にしないが今は少しばかり居心地が悪かった。
「お前はクロウ・ブルーストに好意を持っているのか?」
ぼん、とまるで音がしたかのように甲児の顔が再び朱に染まる。どこから見られていたのか問おうと思ってやめた。今聞いてしまっては立ち直れない気がした。
 深夜に近い時間だからだろう、必要最低限以外の光源の落とされた廊下は薄暗い。薄暗いがそれでもわかるほどに甲児の頬は赤く染まっていた。刹那はどこか気の毒そうな、何かを言いあぐねているような顔をして甲児の反応を待った。
「わ、からない・・・。仲間だし、留置場から一緒に居てくれたけど」
だけど、その先を刹那は聞き取れなかった。だが刹那の何とも言えない表情はますます深まっていく。
「・・・このミッションは俺だけでは達成不可能だ」
まるで意味の分からないことを言い出した刹那に疑問の声を上げるが刹那は答えない。ただ甲児の手首を握って再び歩き出した背はいつものようにぴんと伸びている。様子のかわらない刹那に少しだけほっとして後に続いた。


 翌朝、なぜかロックオンに寄りかかって眠っていたクロウは二日酔いでくらくらする頭を押さえながら起き上る。燦々たる有様の食堂を見回して首をかしげた。借金のせいで飲む機会が少なくなり忘れていたのだが一定量以上を飲むと記憶が飛んでいく体質は変わっていないらしい。ふわふわとした意識で甲児に話しかけたところまでは覚えていたがそれ以降の記憶がなかった。
「クロウ・ブルースト」
少年期特有の低くなり切っていない声がクロウの名を呼んだ。顔を上げれば眉間にしわを寄せた刹那がクロウの顔を覗き込んでいる。隣で寝ているロックオンでなく自分を呼ぶなど、珍しいこともあるものだと思いながら返事をすれば不機嫌そうな顔が一層ゆがめられ何をしたんだろうと首をかしげた。
「昨晩のことを覚えているか?」
何かやらかしたのだろうか、軍に籍を置いていた時は特にトラブルもなかったため記憶が飛んだあとは眠ってしまっているものだと思っていたのだが違うのだろうか。知らず冷や汗が背を伝う。
「いや・・・俺なにかしたか?」
きゅっと刹那の口が真一文字に結ばれる。無言で踵を返す刹那を呼び止めようと腕を上げたががんがんと痛む頭が邪魔をしてうまく立ち上がれない。
「・・・珍しいな、刹那があんな顔するの」
いつの間に起きていたのだろう寝ころんだままのロックオンがぐったりしたまま口を開いた。皆一様に二日酔いらしい、刹那の動く物音で目が覚めたのか食堂のあちらこちらでうめき声が聞こえる。
「あんた酒飲むと素直になるんだな」
ため息交じりの言葉に硬直して寝ころんだままの年上の男を見る。眠り足りないのかロックオンの緑の目はとろんとして声はかすれている。
「というか、甘えるのか?昨日も甲児相手にあんな」
あんな、その先を言葉にする前に再び寝入ってしまったロックオンを揺り起そうといつもの調子で動いたのがいけなかった。ぐらりと反転する視界に喉までせりあがってくる胃液。こんなところで戻してはいけないと口元に手を当てロックオンの胸に頭を預けた。ぐるぐる回る視界がおさまるまでそうしていると視界の端に移る入口が開いた。髪の毛の隙間から横目で見ているとどうやら女性のようだ。ショートパンツからのびるすらりとした白い足がまぶしい。
「クロウ?二日酔いかー」
すぐ隣にしゃがみ込んだ少女の声はいつも通りで少しだけほっとする。
「甲児、悪いんだが水持ってきてくれないか」
痛む頭を押さえているとかすかに笑う気配。すぐに離れていった後ろ姿を見送って再び昨晩の事を思い出そうとするが靄がかかるどころかぷっつりと途切れて追うことが出来ない。
「あんまり無茶な飲みかたするなよ」
差し出されたコップの中身飲みきりようやく一息ついて体を起こした。ロックオンを挟んで向こうにしゃがみ込んだ甲児は笑っているもののどこかぎこちない。再び背を冷や汗が伝いはじめる。
「あんなこと他の人にするなよ」
どう聞こうか考えているうちに立ち上がった甲児が先に口を開いてしまった。微かに頬を染めて拗ねたように目をそらした甲児に何をしたのか聞けるはずもなく、つっかえながらも今後気を付けると返すしかできなかった。

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