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 真面目にキスの日ネタ。シンは女体化してますがカミーユと同室。そのあたりは一つ上にある願い星で。


 キスしてますよ。たぶん。




 どこがと言われて思いつくのは目だ。印象的なバーミリオン。血の色だなんて本人は言うけれどルビーのような紅玉をカミーユは好いていた。
 まっすぐに見つめてくる視線の強さが心地いしやわらかく細められたときは胸が躍る。悲しみからそらさない厳しい瞳を見れば隣りに立ちたいと思う。
 恋かと言われると否定するが(恋愛感情を持っていたら同室になんて望まないし周囲も許さなかっただろう)愛だと言われれば否定することは難しかった。
「なんだよ」
じっと見る視線に気づいたのかシンが居心地悪そうに身じろぎする。夕食時を過ぎた食堂では乗員が思い思いにくつろいでいた。その中でも目につかない辺りで口に入れることもなくサラダをつつきまわしていたシンを見つけたのは一体どれくらい前だっただろう。
「食べないのか?」
カミーユの前にはすでに食べ終わったトレイが置いてある。早く洗わなければ汚れがこびりつくとファあたりに文句を言われそうだな、などと考えながらも頬杖をついて問いかけた。ぎゅっと唇を引き結んだシンが時間がたってしんなりしているレタスをフォークで突き刺し持ち上げるが口に入れることなくため息をついてカミーユの方に突き出してくる。口に運ばれたそれを無言で食べると少しほっとした様子で微笑むのが可愛いと言ったら怒るだろうか。
「食欲ないんだ。カミーユ食べてくれよ」
レイを亡くしてからのシンはもともと細かった食がさらに細くなったとルナマリアが嘆いていた。押しやられた皿を引き寄せてフォークを受け取る。見せつけるようにため息をはいてぬるくなったドレッシングのしみ込んだぐずぐずのクルトンをしなびたレタスとともに口に放り込んだ。それほど量の無かったそれを食べきってトレイと共に持ち席を立つ。
 多少申し訳なさそうな顔をしたシンが立ち上がろうとするのをとどめて足早にカウンターに向かった。食器を洗浄機に放り込みコーヒーとスープを入れて席に戻る。ぼんやり中空を見ているシンの顔色は良くない。もともと色素が薄く白い頬から血の気が引いている。
「これくらいなら食べられるだろ。急に出撃になって辛いのは自分だぞ」
マグカップを置けば困ったような嫌そうな顔を向けられたが無視して先ほどまで座っていた椅子に座る。両手でカップを包んだ細い指。ふちに口をつけて喉が上下するところまで見守ってからコーヒーに口をつけた。
 カレッジに通っていたころの自分に見せてやりたいほどの世話の焼きようだ。シンはカミーユが世話を焼かれる側の人間だったということを知らない。
 ゆっくりと時間をかけてたった一杯のスープを飲み干したシン。暖かいものを体に入れたからかほんのり血の気の戻ってきた頬を見て安心していると赤い目がとろんと眠気を含んでまつ毛をふるわせた。コーヒーを飲み干して立ち上がればつられるようにシンも席を立つ。部屋に戻る道すがらすれ違ったクワトロが何か言いたげにしていたがおやすみなさいと言ってそそくさと立ち去った。
 アーガマで割り当てられた私室はそう広くはない。個人用の端末に壁際のベッド、ミネルバとそう変わらないなと身一つで帰ってきたシンが泣き笑いのような顔をしていたことを鮮明に覚えている。
「クワトロ大尉何か用事だったのかな」
ちらちらと後ろを振り返りつつもシンの目はもう半分閉じかけている。ぐっと伸びをして割り当てられたデスクに向かった。
「呼び止められなかったってことはそんなに急ぐことでもないんだろ。それより早く寝ろよ」
ベッドに腰掛けてぼんやりとしているシンに声をかけながら端末を立ち上げる。生返事をしながらも横になる気配がないのは夢を見るのを恐れているからだということを知っていた。
 シンの生い立ちを詳しくは聞いたことはない。だがカミーユと同じ天涯孤独の身の上だというのは知っている。目の前で家族が失われたことも。
 泣きながら飛び起きることもある。親友の(あるいは恋人だったのかもしれない)名前を呼びながら声を押し殺しているときもあった。一緒に起きて慰めることもあれば暴れる体を抱きすくめて抑え込み寝かしつけることもあった。だからこそ男女で同室などという特異な例が認められている。コーディネイターであり、軍人でもあるシンを仲間の少女たちは力づくで抑え込むことが出来なかった。
 少し前はここまでひどくはなかったらしい。らしいというのはルナマリアも性別を偽っていた頃のシンと寝室を共にしたことがなかったからなのだが。ここまで寝不足の顔をしたシンを見るのは初めてだと言っていたのだからおそらく守ると決めた少女を失い親友まで失った精神的なショックだろう。それでも、彼女を前線から下げられるほどの戦力的な余裕はない。なにより本人が戦場にいることを望んでいた。
 端末の電源を落としてシンに近づく。名前を呼べばぼんやりと見上げる赤い瞳が泣いているように見えた。小さく笑って隣に腰かける。肉の薄い頬に手を滑らせて額に口づける。ぽかんとする顔は先ほどよりもずっとましだ。
「よく眠れるように。じゃあな、おやすみ」
それだけ言って自分のベッドに潜れば呆然としたままのシンがまだカミーユを見つめている。
 シンの瞳が好きだ。だが悲しそうにしているのはいただけない。
「なんだ、足りないのか?添い寝でもしてやろうか」
いたずらっぽく笑えばかっと頬を染めたシンが怒声をなげつけてくる。抱きしめたりもするのに何を今さら恥ずかしがっているんだ。カミーユの事を男とも思っていないくせに。
 乱暴な動きでシーツにくるまる細い背中を見てちくりと痛む胸を自覚する。明かりをきってカミーユもシンに背を向けるように寝転がる。
 恋愛感情なんて持ってない、そんなの嘘だ。だがシン相手に欲を感じるかと言われればそんなことはない。身じろぎもせずいると健やかな寝息が聞こえてほうと息を吐く。身体を起こして薄闇の中こちらに背を向ける細い肩を見た。
 どうにかしてやろうとか、そんな感情はちっともわいてこないくせにクワトロを見上げて笑っているときやエイジや闘志也とじゃれ合っているとむかむかする。
 シン自身とどうにかなりたいと思わないのが不思議でならなかった。だからカミーユはこの感情を恋とは呼べないでいる。


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