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以前ツイッターでぐだぐだ言ってたクロ甲前提で大怪我してスフィアに取り込まれた甲児とクロウのお話。


別名しまっちゃうおじさんクロウ。





 バイクに乗るのが好きだと言っていた少年の掌はまめがつぶれて硬くなったところもあったが自分のものよりずっと柔らかだった。身長の割に大きな手が作る料理は優しい味がしてまるでお前のようだと言ったら顔をくしゃくしゃにして照れ笑いをする。成長途中の体はまだまだ肉のつき方が甘く、薄い。抱きしめれば耳まで赤くして慌てるが最後にはハグを返してくれた。
 躊躇うように背に回されていた細い腕が今はだらりと力なく垂らされている。むしり取ったヘルメットの下から現れた顔は土気色をしていて頬を寄せてもほとんど呼気が感じられない。
 外野がうるさい。目の前は真っ赤に染まっていて薄い腹には強化ガラスが突き刺さっている。何度も、何度も一緒に整備をして新しい機能を見つけたり操縦指南をしたパイルダーの内部はひどい有様だ。
 わかっていたはずだ。何度か仲間だって失った。だが覚悟なんて何の意味も持たない、持たなくなる、意味がない。感情を押さえろと理性が叫ぶが腹の底からぐつぐつと煮える憎しみにのみこまれそのうち何も聞こえなくなった。
 外野がうるさい、人の頭の上でドンパチやらかす馬鹿どもも無線から聞こえる悲鳴じみた撤退命令もすべて邪魔だ。
「ころしてやる、ころしてやる殺してやる殺してやる!!」
空に吠える。煮えたぎる感情に反して理性が沈黙した脳内はひどく静かだ。
 全て殺せ。視界に入るものはすべて殺せ。誰が俺から尊いものを奪ったというのだ。全部全部憎たらしい。
 片手に熱の失われる体を抱え操縦桿を握る。骨がみしみしと音をさせたが関係あるものかすべて殺すのだ。視界に入るすべてを殺すのだ。雑音がうるさい。そんなものは必要ない。金が落ちる音がする。どうだっていいまずはこちらに向かって無防備に腹を晒しているあの黄色い鳥だ!


 CDSが意味をなさない状況にまず撃ち落とされたのは接近していたブラスタEsだ。この一年誰よりそばにいただろう少女の叫びはクロウに届かない。凶悪なほどの出力に禍々しく発光するリ・ブラスタBに最初に照準を合わせたのはバルゴラ・グローリーで次いで動いたのはマグナモードを発動させたガンレオンだった。
 誰よりもスフィアの恐ろしさを知っている二人だからこそ冷徹と言えるほどの速さで攻撃を開始する。
「エスター!」
墜落しかけたブラスタEsを紅蓮が受け止めた。損傷はひどいがコックピットは無事そうだ。通信からはすすり泣きが聞こえカレンは奥歯を噛みしめる。だがあれだけ無防備だったエスターを殺さなかったということは無意識ではまだ取り込まれていないのかもしれない。以前のように叩き落せば、とわずかな希望にすがるように顔を上げたカレンが見たのはSPIGOTを全起動させているリ・ブラスタBの姿だった。
 ガンレオンは相性の悪さから攻撃が当たらず実質バルゴラ・グローリーとリ・ブラスタBの一騎打ちの状態でそれもバルゴラが撃ち負けている。当然だ、スフィアからのエネルギー供給が増えても世界が変わり補給も改造もままならない機体と世界最新鋭の機体、そして暴走からのエネルギーの過剰供給を受けている状態では分が悪すぎる。
『セツコさん!あんまり使うとまた体が!!』
シンの必死な叫びにはっとした。そうだ、クロウのこの状態がスフィアの副作用であるなら当然リアクターであるランドとセツコにだって何かしら副作用があったはず。
 高出力のビームを撃ちあいながら高速で動き回る二機を捉えることが難しいらしく援護射撃もままならない。割って入ろうにも隙の無い状況に唇を噛んだ。

 手足のように動く機体でもこの同族を落とすには時間がかかりそうだ。熱の抜けた体をぎゅうと抱きしめ直し照準を合わせる。殺せ、頭の中でがんがんと響く言葉に従うように引き金を引こうと操縦桿を握りこんだ。
 く、と襟が引かれる。まさか
「甲児?」
正確に翼を撃ちぬこうとガナリー・カーバーから発射されるビームを避け胸元に視線を落とす。
 焦点の合っていない目、薄く開かれた唇が微かに動いた。ほろりと、瑞々しかった肌を涙が滑り落ちていく。襟を引いたのが最期の力なんて言わないだろう?
 操縦桿から手を離し両手で細いしたいを抱きしめる。失いたくない、損ないたくなかった!

 唐突に動きの止まったリ・ブラスタBに照準を合わせながらバルゴラ・グローリーが油断なく接近する。
『…悪いもう、大丈夫だ』
一瞬大きく光ったスフィアを最後にSPIGOTを収納したリ・ブラスタBから通信が入った。いつものような覇気のない声に誰もが沈鬱な気持になる。
 クロウと甲児の関係は誰もが知っていたわけではない、それでも仲の良い二人だという認識ではあった。大破したマジンガーはすでに回収されている。コックピットには致死量だろう出血があった。
『とりあえず帰投しろクロウ。話はそれからだよ』
感情を押し殺したようなカレンの声に促されるようにリ・ブラスタBがイカルガに向かう。
 格納庫に着いて機体から降りたクロウはその場に崩れ落ちた。血だらけのシャツに涙のあとが残る頬。だがその手に甲児の姿はなくコックピットにも居ない。荒い息を吐いて地面を睨み付ける片目は金色に染まっている。
「クロウ、甲児はどうした」
静かに問いかけるゼロの言葉にクロウは黙って首を左右に振った。マジンガーの中に置いていったのだろうか、だがパイルダー内に死体はない。暴走する前後の映像も鮮明なものが残っていないため詳細が不明だ。爆風で吹き飛んだのかもしれない。もしくはあまり考えたくはないが敵に奪われた可能性も
「CDSが効かなくなったのか?そうなるともうお前を戦列に加えることは」
探索チームを出しゼロが淡々と言う。
「それに関しては問題ないと思うぜ」
厳しい表情のランドがガンレオンから降りてきて言葉を遮る。青ざめた顔のセツコもその少し後ろで小さく頷いた。
「悪かったな、二人とも」
目を合わせないままクロウが呟く。血まみれの指先でみぞおち辺りを握りしめるクロウの肩をランドは小さく叩いてセツコは顔をそむけた。
「私たちよりもエスターちゃんに、謝ってあげてください」
ブラスタEsはイカルガには着艦していない。
 あぁ、とかすれた声で答えるが視線は彷徨ったままだ。
「クロウ?まさか目が…」
自分と照らし合わせたのだろうかセツコが言葉を詰まらせる。いや、と答えた左右で色の変わってしまった目が焦点を結び二人を見た。
「大丈夫だ。少し、しんどいだけで」
困ったように微笑んだ顔。既視感のある表情にランドは渋面を作りセツコは口元を手で覆って言葉を失った。クロウは絶対にしなかったその表情。
「あー、とりあえずお前少し休め。指揮官たちには俺たちから話しておいてやるよ」
いいよな、とランドがゼロを見る。確かに今の状態ではまともな話は望めないだろうと控えていたスザクが手を貸して医務室へと向かわせた。
「それで、何がクロウの暴走を止めたか分かっていうのか?」
腕を組んで思案するゼロにスフィアリアクター二人は顔を見合わせる。どう言ったら伝わるのだろう。
「いや、分からねぇな」
あっけらかんと言い放ったランドにゼロが気色ばみ慌ててセツコがフォローに入る。
「理由はわからないけれど、でも分かります。私たちもスフィアと繋がっているから。クロウがもう暴走することはないと思うの」
あの子が一緒だもの、と続く言葉は気付かれないように喉の奥で押しつぶした。







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もゆる
スフィア甲児ちゃんとしまっちゃうクロウに果てしなく萌えてしまって、何度も何度も読み返しに来てしまいます… 甲児ちゃん視点も読みたいです
2013/01/21(Mon)06:23 編集
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