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 なんていうかアスランごめん。









 OZに身を寄せた元ZEUTHのパイロットたちはクリスマス・イブにささやかなパーティーを開いていた。無理やり予定を合わせ休暇を取ったわけではなくトレーズの采配らしいが詳しいことは一切聞かされていない。彼らとしてはこの世界に身寄りのない自分たちよりも家族を待たせている人たちにと考えたがそちらには年末年始にまとまった休みが与えられるらしい。そちらはみないつも通りばらばらの勤務だったのでなんとなく納得してしまった。場所はなぜかトレーズとそれなりに気が合ってそれなりの地位をもらってしまったそこそこ広いアムロの部屋だ。
「じゃーん!アスラン見てください可愛いでしょ?」
乾杯からそれなりに時間がたってほどほどにアルコールが回ってきたころに女性三人がお色直しをするらしい。ノースリーブでセパレート型のミニスカサンタ姿でびしりとポーズを決めるルナマリアに対してアスランは若干引いている。
「ルナ、スカートの中見えるわよ!」
慌てて走るのはファでこちらは長袖にショートパンツでボーイッシュながらもコーディネイター二人に比べ小柄なファにはよく似合っている。
「俺もファと一緒のがよかったなぁ」
ぼやきながら入ってくるシンはワンピースにポンチョという出で立ちでそのままどこかのパーティーに出席してもおかしくはない。頬を染めて短い裾を気にする姿は可愛らしいがもしファと同じ格好をしていたら二人に比べ凹凸の少ない体のシンは少年に見えていただろう。
 それにしてもここくらいでしか使わない衣装にいったいどれだけ予算をかけたかとカミーユはアルコールの回り始めた頭でぼんやり考える。
「三人とも可愛いじゃないか」
ビール片手にテイクアウトしたチキンをかじるアムロは上機嫌でにこにこしている。こちらは違うだろう、となるとそれなりに高価そうな衣装代をぽんと出したのはもう一人しかいない。
「あぁ、帰したくないくらいだな」
ワイン片手にファとシンの肩を抱くクワトロをきっと睨み付け二人を引きはがす。大事な幼馴染と親友をこの男の毒牙にかけるわけにはいかない。
「カミーユ両手に花だな」
けらけら笑うアムロはたぶん明日二日酔いだろう。こちらもきっと睨み付けている間にシンは飲み物を取りに行ってファはアスランに絡むルナマリアの方へ行ってしまった。
「振られたな」
小さく笑うクワトロにローキック入れてもいいだろうかと考える程度にはカミーユも酔っている。




 甘めのカクテルをなめながらルナマリアに絡まれているアスランを見る。頬が緩むのも仕方ないだろう、あのアスラン・ザラが年下の少女に翻弄されているのだ。相当意地悪な顔をしている自覚はあった。部屋の中は暖房がきいていて少々暑い、ベルベットのポンチョを汚れないように荷物のところへ置き戻る。ノースリーブのワンピースは少々頼りないが仕方ない、スカートをはくのは久しぶりだ。
「シン、飲んでる?」
ほんのり頬に血を登らせたキラが椅子に座ったまま問いかけてくる。うまいことアムロにもルナマリアにも絡まれないで楽しんでいるらしい。視線の先ではアムロとクワトロが攻防を繰り返していた。
「えぇ、いただいてますよ」
手に持ったカクテルのグラスを揺らせば微笑を返され居心地が悪い。ぐい、と持っていたカクテルを一息に飲みこみ近くに置いてあった誰かの飲みかけを手に取った。口をつければひどく甘い。
「ねぇ、シン。たとえば僕がもう戦いたくないって言ったらどうする?」
案外強い酒だったのだろうか、くらりとした酩酊感に一つまばたきをする。耳に滑り込んできた言葉を理解するのにさらにまばたきを二回ほどの間を必要としてゆっくりとキラのアメジストのような目を見つめた。すでにキラの視線はシンから外されルナマリアに海老固めをきめられ半死状態のアスランに向けられている。
「そうですね」
はぁ、吐く息が熱い。馬鹿な事を言っている。この人はまだるっこい上に臆病なのだとこの1年でいやという程思い知った。
 するりと見た目より逞しい膝に腰かける。驚いたように目を見開くキラを放っておいて指の長く白い手を取った。シンやアスランのものとは違う、銃火器なんて扱う訓練をしていない手だ。だがシンよりよほどうまくMSを扱う手。骨ばっているが滑らかな指。
「まずフリーダムを粉々にします。できればラクスさんにも掛け合って設計図ごと。それから貴方の手を」
ぎりりと力を込めて握れば小さく息を詰める気配。
「指の関節一つずつ折って二度とMSに乗れないようにしてあげますよ」
くっと唇の端を歪めれば酒のせいか潤んだ瞳がしっかりとシンの赤い目を捉えた。
「許してくれるんだ?」
握り返されそうになった手をぱっと離し睨み付ける。アルコールで溶けた思考回路は面倒な上官ばかりだと自分が面倒な部下なことは棚に上げてため息を吐いた。
「何やってんだよ!」
口を開く前に腕をひかれそのまま足が床から離れる。ぽかんとしている間にひざ裏に手を入れられ視線が上がる。
「おとこはおおかみなんだぞ!あたまからぱくっとやられららどうする!!」
呂律が回っていない、濃い藍色の瞳が極近距離から覗き込んできていて思わず噴き出した。顔が真っ赤なのでおそらくアムロ辺りに絡まれて無理やりに飲まされたのかもしれない。むにゃむにゃと何事か言っているが瞳は半分以上落ちている。
「カミーユ、シンを下ろして寝ろ」
ぐらりとカミーユの上身が傾いでシンは思わずそのたいして逞しくない胸元にしがみつく。シンを抱える腕に力を込める前に自分が倒れない努力をしてほしいものだ。クワトロが呆れたように成長途中の少年の肩を支える。サングラスをアムロに奪われ前髪を乱されたクワトロは掛け値なしで色男だ。こんな状況で考えることではないが。
 いやいやをするように首を振っていっそう腕に力を込めるカミーユを指差してアムロが腹を抱えて笑っている。似合わないサングラスはクワトロのものだろうか。
「わかった、せめてソファに行け」
頭痛を耐えるように額に手をやるクワトロが指した方向を細めた目でじっとみる。誘導されたカミーユが座りこめば衝撃で腿の骨に尻をぶつけて少々痛かった。天井を仰ぐように唸るカミーユは明日起き上れるだろうか、ゆっくりと室内に視線を向ければルナマリアとファが別のソファで仲良く肩を寄せ合って眠っている。床で潰れているアスランは筋肉痛になるだろう。キラはクワトロを手伝ってアムロを寝室に放り込みに行った。
「きらとあすらんはやめとけよぉ」
いつの間にかクッションよろしくぎゅうぎゅうと抱きついてくるカミーユ。足もとで丸まっていたひざ掛けをなんとか引っ張りむき出しになっていた足を隠す。
「うん、あのふたりはやだよな」
暖かい空間に一年前を思い出した。安心してまだ細い肩に顔を預けて目を閉じる。
 こんな夜も悪くはない。



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