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願い星はこれで終わりです。長々とありがとうございました。

あとはここから派生するCCAが書きたいとかそんな・・・






 コックピットの中にいると落ち着くと思うのは異常だろうか。本来体を休めるべき時間にシンは部屋から抜け出しこっそりとデスティニーに潜り込む。両膝を抱えてもともと小さい体をさらに小さくして目を閉じた。
 ロックナンバーは書き換えてある。アスランやアムロ相手でも多少はもつだろう。硬いシートに体を預ければ自分の呼吸音しか聞こえない、他人の気配がしない空間は少しだけ胸のつかえがとれるように思えた。誰もいないから誰かを傷つける心配はない。この場所では夢を見るほどの眠りは得られない、それが何よりの救いだ。
 体型をごまかすために着こんでいた防弾ベストは性別を明かしてから脱いでいた。おかげで体が軽いがそのサイズで採寸されていた制服は少し大きい。もうすぐこの戦いは終わるだろう、そうなったとき自分はまたザフトに戻るのだからその時作り直せばいいかとそのままにしてある。
 戻ることができれば、の話ではあるけれど。きゅうと胸の底が痛くなる。戻って、どうするというんだろう。ザフトにはもうレイはいない、アスランだってこの戦いが終わったらきっとオーブに帰るんだ。今、アークエンジェルに乗っているように本当の仲間のところへ。
 あの一件は艦長たちへの耳へも入ったようだが不思議とシンに謹慎や待機命令は出ていない。ただ部屋だけは移されたようだ。もともと荷物なんてほとんどない。ミネルバはメサイアでの戦闘から離脱して合流していないし(もうグラディス艦長もいない)地球に戻って日もないため寝間着や下着はあり合わせで間に合わせている。下着と言ってもシンの胸は少年と変わらない薄さなのでブラジャーだって必要ないのだが。
 移されたようだ、というのはあれからシンが自室へ戻っていないからでルナマリアともほとんど話していない。睡眠は仮眠室で少しずつ悪夢を見ない程度に、倒れない程度にはとれている。非番の時は勝平やエイジや、とにかく気づきそうもない相手と馬鹿をやって過ごした。
 キラ・ヤマトとも少しだけ話をした、ネオ・ロアノークとも。生身で出会ってみればなんてことはない、普通の青年だ。あの時、オーブの慰霊碑で話をした普通の。拍子抜けしたとともに小さく笑いがこぼれた。なんて遠回りをしたんだろう、初めからこうして話ができていれば彼女は、ステラは。
 息をのんで飛び起きる。耳の奥に絶叫がよみがえって頭を振った。足を伸ばして背伸びをする。小さく息を吐いて視界が仄かに明るいことに気付いた。見ればシステムが一部起動していて首をかしげる。おかしい、自分は電源をすべて落としてロックしたはずだ。
 再び電源を落とそうと身を乗り出すと小さな音がしてハッチが開く。驚いて目を丸くしていると唇を引き結んで困った顔をしたカミーユが覗き込んできた。
「やっぱり、何してるんだこんなとこで」
数度目を瞬いて眉を寄せた。
「・・・ハッキングしたのか?」
不機嫌な声が出てしまったのも仕方ないだろう。だって
「してない。普通にパスワード入れたら開いたからここかと思って」
だって、パスワードは妹の名前にしたはずだ。間抜けにも口を開いて呆けているとカミーユの意外と大きな掌がシンの手を掴んだ。力強く引っ張る力に逆らわずシンもたち上がってハッチから身を乗り出す。夕暮れの喧騒は遠く、今日は戦闘は無かったので格納庫は普段よりも人が少ない。
「明日町に寄るらしい。俺たち二人とも非番になってるから一緒に出掛けないか?」
頷いて手をひかれるままにタラップに降りるが足に力が入らず思わずその場にへたり込んだ。目を丸くするカミーユ以上に自分が驚いてシンは小さくえ、と呟く。
 カミーユが厳しい顔をして膝をつき視線を合わせてくる。あ、まずい、そう思う間もなく両肩を掴まれた。
「何日寝てない」
仮眠はとってるだとか、そういう誤魔化しは効かないだろう。そろりと指を三本立てるが濃紺の瞳が圧力を増したのをみて慌てて指を一本増やした。
「何でもっと早く休まなかったんだ!休むことだって軍人の仕事だろ!!」
カミーユの怒声が格納庫に響き渡る。びくりと肩をすくめて視線をさまよわせるが両肩を掴む手は緩みそうもない。
 膝についた手が汗ばんでスラックスを握りしめる。
「離れないんだ、マユの最後のことばもステラの叫び声も、雷の音もっ」
ひゅうと喉が鳴る。眼球の底が熱くて痛い。けど乾いた目からは何もこぼれなかった。
「レイが、俺を置いて行ってしまった背中も!!」
関節が白くなるほど握りしめる骨の細い拳。色素が薄く日に焼けることもない手に一回り大きな手がかぶさった。暖かい手に息がつまってせき込む。
 膝をついていたカミーユが冷たいタラップにべったりと尻をつけて胡坐をかいて座る。顔を見上げることが出来なくてうつむいたままいるとスラックスを握りしめていた手をゆっくり外され握りこまれた。
 向かい合って両手をつないで何をしているんだろう。何も言わない体温が優しくて小さく呻いた。相変わらず涙はこぼれない。
「いいか、シンよく聞くんだ」
いつも通りの穏やかな声。荒れてささくれ立った指先が甲をなぞりぎゅうと握りしめられる。
「今から一緒に食堂に行って何か美味しいものを食べよう。そしたら俺たちの部屋に行って、俺は外に出てるからゆっくりシャワーを浴びて、軍服を脱いで柔らかいベッドで眠ろう」
そろりと顔を上げると眉を八の字に下げて微笑むカミーユと目が合う。
「俺たちの部屋・・・?」
ひりつく喉を動かしてかすれた声で問いかける。俺たちの部屋、どういうことだろう。
「大尉達だとベルトーチカさんやレコア中尉が妬いて大変だし、ブライト艦長にこれ以上心労はかけられないだろう?俺ならこれでも空手やってたし誰かと恋人ってわけでもない」
いや、それはどうだろう。ファは違うのだろうか、長らく女の子らしい事とは無縁だったがそういう感性がまったく死んでしまったわけではないのだ。
 けれど、優しく慈しみを込めた声には抗いがたい魅力があった。
「だから、帰ろう?」
甘えてしまっても、いいのだろうか。
「俺、相当暴れるぞ」
震える唇から声が滑り落ちる。きりっと眉を吊り上げたカミーユが挑戦的に笑う。
「そんな細いのに力負けするもんか」
めずらしくにやりと口唇を引き上げて悪がきのように笑うカミーユに吊られるようにシンの口元も笑み緩む。
「軍人馬鹿にするなよ。生身の格闘ならアスランにだって負けないんだからな!」
ぱっと手を離してカミーユが立ち上がる。ずり上がったジャケットを引っ張り下ろして体裁を整えて未だへたり込んだままのシンに手を差し伸べた。
 ゆっくりその手を握れば力任せにひきあげられまだよく力の入らない体はバランスを崩しカミーユにもたれ掛る。肉がつかなかった代わりにぐいぐい伸びた身長はカミーユとほとんど変わらない。それでも危なげなくシンを支えてカミーユは歩き出した。
「そんなフラフラで何言ってるんだ。まずは体重戻すことを考えろよ」
眉をひそめて言うカミーユについ吹きだして笑ってしまう。
 なんだよと言いながらも掴んだ腕は揺らがない。すぐそばにある体温に鼻の奥がつんと痛んだが無視して笑い続けた。






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