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願い星のこぼれ話みたいな







 チラムの壊れた町並みに少女の断末魔が響く。伸ばしても届かない手に、もしもなんて言葉を思い浮かべた。



 もし、俺があの時ちゃんとフリーダムを落とせていたら彼女は。ステラは。







 久しぶりに見るシンの落ち込んだ顔にアスランは食事のトレイを持って特に考えることもなくシンの前に腰を下ろした。

「どうしたんだ?ひどい顔だぞ」
ほとんど手のつけられていないシンの食事。苦笑して声をかければ虚ろな眼差しがアスランを見る。
 初めて会ったときのような敵を見るような鋭い目はもう向けられはしないが、時たまこのようなどうしようもなく嫌悪感のこもった視線を向けられることはあった。
「なんでもないです」
シンが薄い唇を震わせる。その間もなんでもないような顔をしてアスランは食事を続けた。
「じゃあ食事はとれよ。戦闘中に目を回してもフォローはしてやらないぞ」
小さくはい、と聞こえる。だがシンの手は昼食のハンバーグを解体するばかりでいっそ口には運ばれない。
 ここにカミーユかルナマリアでもいれば、きっと気のきいた言葉ひとつででシンの憂鬱を和らげてやれただろうに。生憎とアスランただ一人しかいない現状にため息をついた。
「そんなんじゃ、いつまで経っても放っておけないな」
がしゃんと派手な音を立ててトレーが揺れる。机に両手をついて立ち上がったシンは少しだけ唇を震わせたが何も言わず早足に出て行った。
 残されたアスランは脱力するように椅子に背を預け天井を仰ぐ。やってしまった、この短いやり取りでシンの地雷を踏んでしまったようだ。噛み付いてこなくなった分質が悪い、と思うのは贅沢だろうか。罵る言葉でもいいから吐露してくれればまだ、鈍いアスランとて推し量ることくらいできるのに。
 目の前のそぼろ状に解体されたハンバーグを見て頭痛がした。





 デスティニーの中に逃げ込むことはもうしない。どうせカミーユが来て引っ張り出されて原因を喋らされるだけなら一人で発散してしまう方がまだましだった。アスランは悪くない。ただ壊滅的に人の心がわからないだけで、それさえなければ優しくていい上司なのだろうと思う。あんな人とよく友人関係を続けていられるな、とキラに対して思うがキラはキラでいろいろ面倒な人なのでどっちもごめんだと思い直した。
 甲板に出れば地球特有の風が吹き抜ける。誰もいない事を確認して座り込んだ。空を見上げれば雲が厚く垂れこめている。もしかすると雨が降るかもしれない、もっと悪ければ雷が。
「よりによって俺にそんなこと言うのかよ・・・」
雷雨は嫌いだ。嵐になればもっと悪い。否応なく刺激される記憶はかつて追いすがれなかった白い背中に直結してる。躊躇ったシンを押しのけメイリンごとアスランを落としたレジェンド。
 夢を見て自分を失うことはなくなったが悪夢を見て飛び起きることは少なくない。大抵、家族が吹き飛ばされたところから少女の絶叫を経て雷雨の中の爆発まで、途中で目が覚めることもなく見続ける。置いて行かれるのはもうたくさんだ。だからシンは今度アスランがどこかへ行こうとするならついて行こうと思っているしもしそれが間違っているようなら生身の時点で殴り飛ばしてでも止めようと固く誓っている。アスランが迷うのなら一緒に迷ったらいい。
 だが同時にキラとアスランに対して心の底からは信頼を寄せられないとも気づいていた。信用はしている、彼らは優秀なパイロットでシンよりよほど頭がいいのだから。
 澱のように燻るのはどうして、という感情でこればかりはどうしようもない。どうして、きっとキラの腕ならあそこでステラを殺さずに止めることだって
「シンのねーちゃん?どうしたんだよこんなところで」
はっとして顔をあげると勝平が不思議そうな顔で覗き込んでいた。なんでもないと苦笑して立ち上がる。時計を見ればあれからもう2時間近く経っていた。午後の予定はなんだったか。たぶん待機だったと記憶しているから問題ないだろう。
「勝平こそ、今の時間は勉強のはずだろ?」
まだ成長期の来ていない少年の頭を見下ろしながら言えば勝平は悪びれる様子もなく笑った。逃げてきたな、とすぐに分かったが宇宙太や恵子のところに突き出すような気分でもなかったため黙って入口の壁に寄りかかった。
 ほんの少し前なのにアカデミーのころが懐かしくなる。あのころはレイが居てルナマリアが居てヨウランもヴィーノもメイリンも、些細なことで肩を叩いて笑えあえていたのに。
「なんか雨降りそうだなー。シンのねーちゃん戻ろうぜ?おやつの時間だしよ!」
勝平の成長途中だがごつごつとした手がシンの細い手を握って引く。変なところに胼胝があるのは操縦桿のせいだろうか。暖かい手に引っ張られるままに食堂まで戻る。アスランはもういなかった、当然だろうあれで結構忙しい身なのだから。
「シンのねーちゃん元気ねぇな。またアスランとケンカしたのか?一回俺がガツーン!と言ってやろうか」
ぐっと拳を握って険しい顔をする勝平を見て思い浮かぶのはアスランが正座で説教されている様子。子供の扱い方をしらないアスランはきっと困惑に顔を歪めるだろう。もしかしたら大人げなく勝平に言い返すかもしれない。それでもきっと勝平の方が口げんかでは勝ってしまうだろう様子を想像して思わず噴き出した。
 ぽかんとする勝平をよそに体をくの字に折って笑うとなんだか昼の事が馬鹿らしく思えてきて目じりに浮かぶ涙を払う。思い出したように空っぽの胃が小さく鳴いて息を吐いた。
「お腹すいたな、勝平どうする?」
普段あまり空腹を訴えないシンに勝平がぱっと顔を輝かせる。気分が良かったのでケーキでも奢ってやろうかと財布に手を伸ばした。





 

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