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ブライトさんの胃がストレスでマッハ

 シンはひどく憔悴していた。2年前に置き去りにされた精神がようやく立ち直ってきていた矢先にこの大戦、そして信頼していた友人の、守ると決めた少女の死。
 それでも前を、明日を見据える瞳にZEUTHの艦長達はシンの意思を尊重することに決めた。戦い続けることを選んだ戦士の意思を。強力な機体であるデスティニーを前線から下げるには惜しいという理由もあったが。
 それでも時にその脆さが露呈することがある。普段は勝平やセツコの手前気を張り続けているようだったが夜、休息をとるときそれは漏れ出てしまった。
 早朝、いっそ深夜と言っていいかもしれない時間にルナマリアが真っ青な顔をして医務室の扉を叩いたのがはじめだった。寝巻きといって差し支えない無防備な服装に顔をしかめた軍医が話を聞いていくうちに別の意味で眉を寄せる。男手を連れてこいと指示されたルナマリアが真っ先に駆けたのは士官室の固まっているエリアで、運良くクワトロを捕まえたルナマリアは自室へと走った。尋常ではない様子にクワトロも胸騒ぎがやまず顔をしかめる。
 扉を開けば啜り泣きが聞こえた。ベッドの周囲はひどい様子だ。物が散乱し血の粒がとんでいた。ベッドの隅で膝を抱え込み肩を震わせるシンを見てルナマリアが座り込む。どうして、ぽつりと落とされた声に返せる言葉をクワトロは持っていない。軍医も近づくと暴れるので手が出せない状況なのだろう。
 ゆっくり足を進め距離をつめる。名前を呼べば嫌だと言うように首を降る。肩に手を伸ばす、小さく悲鳴をもらして暴れようとする両手を押さえ込むように抱き込み背を撫でた。
「レイ…」
かすれた声が呟く。そのままくたりと力の抜けた体を支え膝裏に手を回す。引っ掻いたのかぶつけたのか、半袖から覗く腕は所々流血していた。
「君は休め。誰にも口外しないように」
そのまま医務室に連れていくのだろう。ついてこようとするルナマリアにそう釘をさしクワトロは軍医を伴って踵を返した。
 涙のあとが痛ましい。これからの処遇を考えれば頭痛がした。




 人工的な明かりのまぶしさを瞼に感じうっすらと目を開く。鼻を衝く消毒液の匂いにやってしまったと思い額を押さえた。持ち上げた手にはきれいに包帯が巻かれやるせなさにぎゅうと目をつぶる。閉じた目の裏に浮かぶのは炎と瓦礫、それから去っていく白い背中。増えるゆめに溺れて自分がなくなる、どうしようもない孤独感に何もわからなくなって、その先は。
 呻いて絶叫して飛び起きるだけならましな方だ。ルナマリアに悪いことをしてしまったと緩慢な動作で体を起こす。部屋に帰らなくては。
 医師は運よく席を外していたらしい。寝間着のままだが仕方ないだろう、そっとベッドを抜け出して廊下をうかがう。早朝よりもまだ早い時間に出歩いている人は居ないようだ。裸足のまま小走りに部屋を目指した。
 早朝の、地球独特の冷えた空気に肩を震わせて誰にも見つからないようにと祈るように足を進める。なんせ今の自分は寝間着でそのうえ怪我を見せびらかせるように細い腕には包帯が巻かれている、何かあったのかと気を使わせるのは嫌だった。
「ルナ部屋にいるかな」
扉のロックに手をかけて足が止まる。医務室に居なかったということはルナマリアには大きな怪我がなかったのだろう。だがきっと迷惑をかけた。指が震えて動かない。小さく息を吐いて腕を下ろす。いつまでもこんなところにいるわけにいかないのはわかっていたが。
「シン?どうしたのこんな時間に」
ファが驚いたような声を上げついで息を飲む。慌てて両手を後ろに隠したが間に合わなかったようだ。
「何でもない!ちょっとぶつけて切っただけなんだ、大したことないから」
しどろもどろになって後ずさる。困ったように心配するように名前を呼ばれて距離を詰められ居心地が悪い。
 どうにも微妙な空間を開けて見つめ合うシンとファ。その時シンが躊躇って開けなかった扉が開いた。声が聞こえたのだろうか、青い顔をしたルナマリアが泣きそうな瞳で、声でシンを呼ぶ。
「ごめん、びっくりしただろ?部屋かえてもらうから」
咄嗟に目をそらして言うと力強い手がシンの肩を掴む。怒鳴りつけようとするルナマリアに先んじて口を開いた。
「レイが!」
色をなくした唇が震えて止まる。
「アカデミーで、急に体鍛えだしたことあっただろ?あれ、俺を抑え込めなかったからなんだ」
絶句したのはルナマリアだけではなかった。巻き込まれた形になるファに悪いなと思いながら視線をずらし床を見つめる。白い床、まるで
「笑っちゃうよな。レイ、結構負けず嫌いなとこあったから」
力の抜けた手をそっと外し部屋に入る。もう着替え終わっていたルナマリアはそのまま扉の外で立ち尽くしていた。小さく音がして扉が閉まる。薄暗い部屋はゆめのどこにも結び付かなくて少しだけほっとした。


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