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シンはアークエンジェルではなく直接アーガマに連れてこられた、ということにしておいてください。
 多少流血表現があります。





「格納庫に寄らないと」
早足で歩くカミーユに引きずられるまま足を進めていたシンが呟いて足を止める。
 振り向くとどこか焦点の定まらない目がカミーユを通り越したどこかを見ていた。早く休ませないとどうにかなってしまいそうだ、だが格納庫に行かなければシンは休みはしないだろう。仕方なく踵を返し格納庫へ向かった。
 整備士達の仕事は戦闘配備中よりもその前後の方が多い。例に漏れず大規模作戦を展開したばかりの格納庫は慌ただしかった。まだ情報が回っていないのだろう出戻ってきたシンに対する視線は好意的なものと同情的なもの、僅かに懐疑的なものも向けられていた。じろじろと見る時間があるほど暇でないのが救いだろうか。シンはカミーユの手を離しさっさと愛機の元へ向かう。
 幾らかは傷ついていたもののそれほど大きな修理の必要のないシンの新しい機体。慣れた様子で乗り込むシンに離れていた時間が思っていたよりもあることに気づいた。いくらかもしないうちにシンがコックピットから降りてくる。その手には厳重に封のされた大きな紙箱があった。
「いつか必要になることがあるかもしれないから」
嫌そうに眉をしかめるシン。表情はいくらか戻ってきたがその目に生気はなく顔は俯き気味だ。
「用がすんだならもう行こう。疲れているだろ?」
嫌な予感がする。頷いて顔をあげるシン。ほっとしたのも束の間真っ直ぐカミーユの背後を見るシンの瞳は凍りついていた。
 フリーダム。かすれ声とともにふらりと一歩踏み出す。まるでカミーユが見えていないように翼を持つ機体に近づいた。
 VPS装甲をオフにしてなお特徴的なその姿。カミーユは知るはずもないがその姿は、2年前の大戦時の名残を残していた。
 ふらりふらりと近づいていたが不意に立ち止まる。慌てて並び顔をのぞきこんだ。元々色素の薄い顔をさらに青ざめさせ表情を欠落させたシン。感情の削げ落ちた目はがらんどうだ。震える唇が案外しっかりした言葉を紡ぐ。
「あの日、俺たちの上をフリーダムに弾き飛ばされた地球軍の機体が通りすぎていった。すごい風で、父さんと母さんが僕とマユを庇ってしゃがみこんで」
ぽたり、硝子玉の瞳から水滴が落ちる。
「また走り出したけどマユが荷物落として、俺だけ崖下に取りに下りた。振り返ろうとしたらマユ達のところに流れ弾が落ちた」
風圧で紙人形のように吹き飛ばされるシン。想像するのは容易かった。
「僕は怪我をしなかった。吹き飛ばされたとき上をフリーダムが飛んでいくのが見えて、馬鹿野郎って思ったよ。馬鹿野郎、なんで避難ルートで戦闘なんかって」
くしゃりとシンの顔が歪む。下を向いて唇を噛んだ友人の細い肩を抱いた。労るように撫でればずず、と鼻を啜る。
「妹の腕が飛んできたんだ。ぼとって、目の前に落ちてきた。携帯、取りに行ってあげたのに、操作する腕だけになっちまった」
ぎゅう、とシンの手が左胸の部分を掴む。正確には内ポケットにおさめた妹の形見を。
「行こう?もう休んだ方がいい」
シンは黙って頷く。左手だけで抱えていた箱を両手で抱え直しカミーユに肩を抱かれて歩く。顔を上げなかったのは幸いだったのか。
 数メートル先で目を見開くアスランと拳を握って耐えるようにシンを見るキラに疲れはてたシンが気づくことなかった。
 カミーユもあえて視線をやろうとはしない。今はみな疲れている。疲れはてているから普段は耐えている悼みがぽろりと溢れてしまうことだってあるだろう。
 おぼつかない足取りのシンを一人にすることは憚られた。だから特に他意はなくカミーユはごく自然に自分に割り当てられている部屋にシンを案内する。
「ここ、カミーユの部屋だろ?」
座り込んでから気づいたのかきょとんとカミーユを見上げた。
「今のまま一から部屋を用意するのは大変だろ。ちょっと休んでからにした方がいい」
微笑めばシンもぎこちなく微笑みを返す。
 緊張したからかな、なんて言いながらぐったりと椅子にもたれ掛かる姿は別れる前と同じように気安い友人のままだ。
「そう言えば、カミーユはあんまり驚かなかったな」
首をかしげて聞くシンに軽く肩をすくめて返す。
「そうじゃないのかとは思ってたんだ。それに、男だろうが女だろうがシンはシンだろ」
驚くシンに以前ステラを助けるために海に飛び込んだ時の事を告げる。アスランとカミーユそしてフォウで救援に向かったとき違和感があったのだと。性別など、どちらでも構わなかったのは本心からだ。
「アスランは欠片も気づかなかったのにな」
仕方ない、アスランはそういう人間なのだから。くすくす笑うシンに内心安堵しながらカミーユも微笑んだ。




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