忍者ブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

レイとシンはあくまで友人でした。





 次から次へと涙がこぼれた。腕の中には押し付けられた箱がある。待って、とも行かないで、とも言えなかった。箱を抱き抱えるようにして体を縮こませ、目を閉じる。
 一緒に行くと、言ってやればよかった。そうやって一緒に死んでしまえばもうシンが失うものはない。親友は戻らない、それだけは確かで頬を濡らす涙が溢れ続ける。嗚咽をこぼし必死に息をした。
「シン…」
ルナマリアが気遣わしげに手を伸ばしてくる。だけど欲しいのはその細くて柔らかい手ではないのだ。
 されるがままになりながらもシンは外界を拒絶する。アラートが鳴り響き危険な状況であるというのにルナマリアも動こうとはしない。
「シン…帰ろうよ」
震える手がシンの頭を撫でる。
「帰るって、どこに…もう帰る場所なんて」
シンの家は二年前になくなった。オーブという国があっても家族のいないあの場所はシンにとって帰る場所ではない。
 レイは、シンを遺していってしまった。最後に、触れられた頬が、手のひらが、掴めなかった引き留められなかった背が瞼に映る。
「シン…」
呼ぶ声は誰のものだ。腫れた目に失ってしまったはずのかつての上官を映して息をつまらせた。




 言わなきゃならないことがあるんだ。帰投したパイロットたちが状況把握のためアーガマのブリッジへ上がったときのことだった。ぽつりとこぼされた声にカミーユは眉を寄せてシンを見る。離れている間にいくぶんか痩せたようだ。肉の削げた頬から色をなくしてずっと離さなかった封筒をブライトに差し出す。
「…今でなければならないのか?」
困惑はブライトも同様だったらしい。しかしシンの真剣な眼差しに差し出された封筒を受け取った。
 握りしめられた手が震えている。今さら何があるのだろうとシンの様子を見ながらカミーユはブライトの反応を待った。
 一瞬目が見開かれ書類とシンを見比べる。暫く考え込んだのちその書類を隣に立つクワトロへと差し出した。
 驚愕はクワトロも同様のようで、サングラスの奥で何度か瞬きをしたように感じた。
「…シン。この書類によれば君は女性ということになる。いったいどういうことなんだ?」
書類をさらに隣に立つアムロへ渡しクワトロが口を開く。苦々しい声だった。
 やはり。カミーユはさして驚くこともなく何度か瞬きしてシンを見る。
「書類に書いてある通りであります。お、自分『シン・アスカ』は女です」
使いなれない敬語をつむぐ唇から色は消えていた。それでも真摯にクワトロへ視線を返す。
「2年前プラントに上がるとき書類が間違って受理されて、そのまま、えっと」
言葉を探して唇が震える。
 なぜ訂正しなかったのか。どうしてそのままで軍に入隊することができたのかすべて説明するつもりなのだろう。
「俺にもよくわからないんです。聞いた話によると議長の意向だったとか」
特に不自由はありませんでしたし、そう続けるシンに嘘を言っている様子はない。
「女じゃアカデミーにいれてもらえないかもとか、色々あって」
必死だったのだろう。戦争の終わったばかりの世界は子供が一人で生きていくには厳しすぎる。
「っ…知っ、てたのは」
声が震えて言葉が途切れた。
 それだけで誰もが悟り、そして未だ戦闘宙域を抜けただけで休息をとっていないことを思い出す。ブライトが頭痛を堪えるように眉間を揉みシンとルナマリアに部屋をあてがうように指示してその場はお開きとなった。
「行こう」
誰も動かなかった中でカミーユだけがシンの手を引いた。有無を言わせず早足で部屋を出る。制止の声がかかったような気がしたがカミーユはあえて無視して部屋を出た。


拍手

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
[28]  [27]  [26]  [24]  [23]  [20]  [22]  [21]  [19]  [18]  [17
忍者ブログ [PR]